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Jaekel et al. (2017) Early Foreign Language Learningのレビュー

先日の小学校英語教育学会の基調講演で言及されていた,早期外国語(英語)教育に関する論文を読んでみた。(ちなみに講演では2019年と言っていた気がするが,実際は2017年の論文だった)

Jaekel, N., Schurig, M., Florian, M., & Ritter, M. (2017). From early starters to late finishers? A longitudinal study of early foreign language learning in school. Language Learning, 67(3), 631-664.   https://doi.org/10.1111/lang.12242

基本的には,論文中で幾度となく引用されているMuñoz (2006) のBAF (Barcelona Age Factor) プロジェクトと同じ問題意識,類似したデザインで行われた研究である。Muñoz (2006) については,以前にTwitterでも簡単に感想をまとめていた。

ただし,Muñoz (2006) とはいくつか異なる点がある。まず,対象が1年生の後半スタートの学習者 (early starters [ES]; age 6-7 years) と3年生スタート の学習者 (late starter [LS]; age 8-9 years) と,Muñoz (2006) と比較すると学習開始年齢がどちらも早い。また,測定している能力がリスニングとリーディングの受容スキルのみであり,これらが5年生,7年生の2回のポイントで測定されている(ちなみに,調査が行われたドイツでは5年生は中等教育1年目にあたるそう)。そして,年齢要因だけでなく,学習者の性別や認知能力,家庭のSES (socioeconomic status) など様々な学習者要因を含めた検証が行われている。

年齢要因については,結果としては短期的(5年次)にはESがLSよりもテストパフォーマンスに優れるが,長期的(7年次)にはLSがESよりも優位になることが示され,過去の研究と同様に早期英語教育の効果へ疑問を投げかける結論となっている。細かい分析方法や結果,議論については実際の論文を見ていただきたいが,論文の最後の部分では具体的な提案として以下の2つが挙げられている。

1. increase the amount of exposure from Year 1 onward, possibly following
immersive or content-based approaches, or
2. move foreign language education into Year 3 or even Year 5 (i.e., secondary
schooling), with more lessons and thus an overall more intensive approach. (p. 655)

この部分だけだと別のことを言っているようにも読めてしまうかもしれないが,結局のところ,どちらも現状より外国語への接触量を高めるべきという主張である。早期に始めるにしても週に1回45分の授業では意味が無いのでもっと接触量を増やすべきだし,そうでなければ,開始時期を遅くして授業回数を増やした方が効果的だろうということである。(※)

そのうえで,以下のように政策立案者や教員,保護者などには早期英語教育に対して慎重かつ冷静な議論をするように求めている。

Ultimately, all involved stakeholders have to ask themselves what they expect from foreign language teaching at the elementary and preschool levels and what they can realistically expect from minimal foreign language input of 1 or 2 45-minute lessons per week. (p. 655)

週に1回(45分)あるいは2回の外国語教育では過度に期待をしすぎずに,そうであればそのような外国語教育から何を求めるのかということである。

また,早期外国語教育の研究について,研究が少ない分野あるいはこれから検証が求められるトピックについても言及されていた。

The field of early foreign language learning remains in dire need of empirical
research particularly targeting teacher education, the transition from
elementary to secondary education, and the use of textbooks. (p. 654)

教師教育については外国語を担当する教員の指導力や英語力,小中連携については校種間での指導方法の違いなど,そのまま日本の文脈にも当てはまるような課題が挙げられている。

Muñoz (2006) にしろ,今回のこの研究にしろ,どちらも教育政策として小学校での外国語の開始年齢が引き下げられる前後の学習者を対象とした大規模調査が行われている(今回の研究では対象者は5,000人以上の児童)。日本でも数年前に同じような状況にあったが,このような大規模な調査は行われていないのが現状である。


(※)本研究におけるESもLSも開始時期は一般的には早期であるため,厳密には前者を「超早期」と言ったほうがいいかもしれない。超早期あるいは早期の英語学習では暗示的な学習メカニズムが優位であり,それを活かすために大量のインプットが必要になるため,ここでは超早期に開始して大量の,intensiveなインプットを3.5年間与えるか,それが出来なければ3.5年間の授業時間を2年間に凝縮してintensiveなインプットを与えたほうがいいのでは,という議論である。

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