長年眠っていたウエスタンブーツを今年、思い切り楽しむことにした
分不相応な憧れアイテム
玖保キリコの「いまどきのこども」という漫画のキャラクターのうち、私はツムグ君という少年が大好きだ。
他のキャラクターがおませで饒舌であるのに対し、彼はほとんどしゃべらず常に一段違うステージから静かに眺め、達観しているように見える。
しかし、大のヘビィメタル好きで、両親に買ってもらったカッコいいロンドンブーツを大事にしている。彼は時々押し入れからこのブーツを出しては、詰め物を入れて履きこなし恍惚の表情を浮かべる。いつかこれを履いてお目当てのバンドのライブに行ける日を夢見て...。
誰しも、なぜあなたがそれを?と言われてしまうようなアイテムに惹かれてしまうことがないだろうか?
真夜中のウエスタンブーツ争奪戦
今から約20年前(いつも古い話で恐縮だが..)、安室奈美恵さんが流行らせた、靴下が延長したような厚底の黒いブーツは年齢的にもテイスト的にも全く眼中になく、それまでブーツさえ履いたことがなかった私は、真夜中、締め切りの迫る投稿論文の最後の校正を詰めていた。スペルチェックを念入りに確認し、図表のキャプションなどに誤りがないかどうかなど、なかなか細かい作業をしており、ちょっと嫌気が差していた。
本当になんでそうなったのか全然覚えていないのだが、現実逃避(ネットサーフィン)に耽るうちになんとなく茶色いウエスタンブーツを見つけた。
当時ロングブーツもショートブーツも比較的足に沿った形をしていたためか、茶色となると黒よりも一段落ち着きすぎる感があり、魅力的に思えなかったのだが、長靴のようなウエスタンブーツの独特の形は抑揚のありすぎる私の足にも合うのではないだろうかと思ったのだった。
しかも、ウエスタンブーツというと、なんだかフリンジのようなものがついていたり、派手な刺繍が施されていたり、それこそツムグ君が履いているようなヘビィな色や模様のものを想像していたのだが、私が見つけたのはスエードで、同じ色の糸でステッチが入っているだけの比較的シンプルなものだった。
これなら案外私にも履けるのではないだろうか?
でも海外のサイトで、国内で売っているところはあまりなさそうに思えた。
しかも平均3万円はする。1万円以上の靴など買ったことがなかった私には到底手の届かない品であった。
さて、論文に戻るかな...と思った矢先、yahooオークションのサイトにそれはあった!ちょうど私が見ていたのにとても近いキャメル色のブーツが!
私はすぐさま仕組みもよくわからないまま、数十人が既に参加しているオークションに参加し、徐々に上がっていく価格に戦々恐々としつつ、結果、翌朝に見事購入することができた。
結局1万円以上にはなってしまったのと、少し写真が不鮮明であったことで、本当に大丈夫だろうかという不安と、いきなりこんなものをなぜ買ってしまったんだろう(これはまさに夜中のテレビショッピング現象じゃないか)...。という後悔の念も若干あった。
しかし、競り落としてしまったため、その日に振込を済ませ、待つこと数週間。ついに自宅にブーツが届いた。
思っていたよりも固く、ゴツかった。簡素な自宅における存在感がすごい。
買ったはいいが、なぜか履けない...。
が、たぶんその後、このブーツがほとんど日の目を見ることはなかった。
例のごとく私はツムグ君のように、自宅で時々出しては履いてみて、ため息をついてまた箱に戻すということを20年間繰り返していた。
実際、どう履いていいのかよくわからなかったのだ。
なんとなく合いそうな服もあったのだが、このウエスタンブーツの主張がすごくて、今までブーツなど履いたことのない私が、いきなりこれを履いて外を歩くのがなんとも気恥ずかしかったのだ。
ウエスタンブーツを再び楽しんでいる
しかし、年を重ねて、自意識が消失したのか、あるいはファッションの勉強をすることで許容できるデザインの範囲が広がったのか、とにかくこのブーツをこの冬、沢山履いてやろう!という気分になり、年末、このブーツに似合う服を新調することにした。
この決意はFPSSの同期にも表明したので、ほどなく同期からも色々アドバイスをもらうことができ、こんなに沢山の可能性があるものかと驚いたのだが、もし勢い余って買ってしまって、眠っているアイテムがあったら、あきらめずに一度出してみて、今の自分に合わせる方法を模索してみても良いかもしれないと思った出来事だった。