あなたのふところ
あなたのふところにはいると、
おもいだす。
お父さんが、お母さんの帰りを待って一階でテレビを見ていた。
わたしはちいさくて、
お父さんと寝たかったけれど、
お父さんはテレビと笑って、
お母さんを待っていた。
わたしは一人で布団に丸まって、
一階でテレビと楽しそうに笑うお父さんの声を遠くにきく。
「ねむれないよ」
「ひつじをかぞえなさい」
ひつじを一匹一匹かぞえる
羊は、モコモコな毛だけを残して柵を飛んで行く。
そのモコモコはたまって、
雲になって上にのぼって、
空でくじらになる。
そのくじらは空色の海をぐわんぐわんと泳いで、
かぜがひゅーっと吹くと跡形もない、
真っ青な空になった。
羊は結局数えられないまま、
ぼーん、ぼーん
と階段下の大きな振り子時計がなる。
寂しかったなぁ。
でもいまはあなたのふところがそれをさっと拭ってくれる。
あなたのふところは、
本当に
あったかいなぁ。
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