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風呂敷の中身

ここに、誰がおいたかわからない生壁色の風呂敷がある。
中には何か入っているようだが、しっかりと口を縛っているので、よほど大切なものとみて開けるのを躊躇う。

大きさは、例えるなら、人の頭程度、だろうか。
わりとしっかりと自立できる楕円形。

はて、これをどうするか。
試しに持って重さを計り、警察へ届けるか。
いや、中身を見てみるか。

待てまて、
もしこの中に何かいけないものが入っていたらどうする。
例えば、、、

え、

頭、とか。

いや、待て。
落ち着け、頭なら血など下から、

でてる!!!
でている、茜色ほどの液体が地面に、
生壁色の風呂敷も下から徐々に紅海老茶色に変化している。

やはり、誰かに知らせるべきか。
いや、わたしが犯人と晒されはしないか。

いや、頭とも限らないが、
そうでないとも限らない。

わたしは着物の裾で指紋に気を付けながら、
それを持ち上げてみた。

お米五キロほど、だろうか。

しかも夏の日差しを浴びていたからなのか、
生きていたからか、
とても暖かい気がする。

よくよく見ると楕円形だと思っていたが、
多少の凹凸がある。

もう、それにしか見えないのだ。
では誰がなぜこんな場所に誰を置いたのか。
胸がどくどくと波打ち、
脇やら額からは汗が吹き出る。
掌は汗まみれで、
指紋隠しの着物の裾は湿って皺がよっている。

「あぁ、岩木の旦那さん」

突然、後ろから、隣近所のばあさんが私を呼んだ。
びくりとしたその瞬間、
風呂敷からそれがごとんと落ちた。

私の毛が逆立ち、心臓から血の気がさっと引いた。

「あら、落ちたわよ、トマト」

トマト?
わたしはばあさんに目をやると、
ばあさんのしわくちゃな掌には綺麗な大粒のトマトが日に光っている。

「あら、潰れちゃったのね、ザルにいれて風呂敷に包んで置いておいたのに、下の方はやっぱりダメね」

「今夜は潰れトマトを使わせてもらうよ、ありがとう」

キラキラ日が反射しているトマトたちが、
私を笑っていた。

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