四畳半の畳一枚
畳、私が来たばかりの頃は、
い草の良い香りのする淡黄蘗色だった。
おんぼろ荘のわりに畳はきれいにしてある何にもない四畳半だった。
今ではい草の匂いもしなければ淡黄蘗の名残もない。みんな款冬色や幹色のまだらになっている。
特に私が布団を敷いている四畳半のど真ん中、畳一枚分ほどの箇所は銀煤竹色にじっとりしている。
この四畳半には私の何年もの汗で染め上げた銀煤竹のシミが以外に、窓際にも一つ、すでに幹色ほどになっている場所があった。
だいたい、女性のお尻くらいの大きさ、楕円形状にみえなくはない。
そこに腰をおろし、窓の外に目をやると、
大きな長い川、
今では少なくなった路面電車、
それから
春には桜が薄紅に咲いて舞って、
梅雨には大きな空色の紫陽花が咲いて、
夏には日陰が気持ちいいくらい緑が繁り、
秋には紅葉が葉を真っ赤に染めて、
冬には枯れ木の影が四畳半に綺麗に浮かび上がる。
そこに腰掛けて眺めていた人は、
何を考えて眺めていたんだろう。
私は、
見たことのないあなたを感じながら、
タバコ吹かして眺めてますよ。