南雲マサキのマイクロノベル/ねむみ編002

011(086)
枕を裏返すと村があった。村人たちはひどく驚いた様子で、なにを勘違いしたのか女をよこした。彼女が毎晩泣いて不憫なので、僕はずっと枕カバーを洗っていない。


012(092)
夢の中の先生に文章を書く練習をしなさいと言われて、目覚めてすぐに書き始めた。先生の言葉を忘れないように毎日ノートにつけていく。先生が夢から出てきたことはないので、まだノートは見せられていない。


013(093)
枕が変わると眠れない。君がそう言ったから、実は毎日ちょっとずつ中身を入れ替えていたんだ。今夜で君の枕は、ちょうど半分が君の枕ではなくなった。疑ってごめん。責任は取らない。


014(100)
元気、元気はいりませんか? 今夜の眠気が足りないんです。あっ、図書館で本を読む人の姿が! 「シリーズの新刊が発売されるので、既刊を一気読みするんです」元気と眠気を交換して、私は本という名の物語をかぶって眠った。


015(101)
あのね、とクマさんが話しかけてきた。「ぼく、冬眠ってあんまり好きじゃないの」あなたのママはそれを認めるでしょう。でも、私はあなたのママのママなので、容赦なく洗濯します。だけど安心してね、ぬいぐるみのクマさん。ベランダはもう春ですよ。


016(108)
僕のベッドに幽霊の男が横たわっている。「眠りたいのです。こうして横になっていればきっと…。どうかあと少しだけいさせて下さい」あれから10年。彼はいまだに眠れず、しかし眠ることを諦めず、僕を実験台にして快眠グッズの開発に全力を注いでいる。


017(109)
道ばたに不思議な箱が置かれていた。近づくと温度を感じる。触ってみたら生温かくて、妙に気持ち良くて、まぶたが重くなって眠ってしまい、そのまま箱になった。「やれやれ。ようやく目覚められた」生温かい箱だったものは、ゆっくりと道を歩き始めた。


018(110)
僕のぬいぐるみが発売決定! 1/7スケールで約14字サイズ。ふわふわの文字間をきちんと再現。抱っこして眠ったら夢の中で読めるかも。もし君の中で増えちゃった場合は、捨てたりせずにお友達にプレゼントしてね。あ、0時を過ぎたらエサは与えないでね。


019(113)
おかしいなあ。布団に入って目をつむった途端、もう朝だ。「これは夢だよ」なら証拠を見せろ。エビデンスってやつ。あっ、エビがダンスしながら油に飛び込んでエビフライになった! こりゃ間違いなく夢だ。ん? このバチバチバチって音は……いま何時だ?


020(114)
マクラには小さなぬいぐるみがたくさん入っていて、ぼくたちと一緒に眠りたくて待っているんだよ。頭の下にぬいぐるみを置くのはかわいそうだから、ぼくはマクラは使わないんだ。でもどうして足の下にマクラがあるのかはわからないんだ。

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