マイクロノベル集/君はいったい何者だ? 031
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きみは動体視力がいいな。我々と仕事をしないか。我々はきみより動体視力がよいのだが、認知や判定が苦手でね。我々の世界をスローモーに変換してきみに見せるから、判別してもらいたいんだ。では、始めよう。我々が作り上げた世界を善と悪に切り分けてくれ。
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子どもが虫取り網を持って走っている。なにが採れるんだい? 「草!」ははは。虫取り網で草取りをしているのか。原っぱを見れば、追いかけられる雑草たちが右往左往している。とんでもねぇ土地に引っ越してきちゃった。
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我々は家畜ではない。エサを与えられる謂れなどない。たとえるならば、大いなる海原を旅するトビウオ……兎……なんか違うな。うん、まあ、いいか。とにかく原っぱをぴょんぴょんしてるんだよ。つまり自由なんだ。人間なんかに食べられないぞ。
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ジュースの自動販売機に「AR機能付き」との張り紙。好奇心で買ってみたら手にCGの缶がくっついた。なるほど。飲むことはできないけど、こりゃ面白い。ためつすがめつ眺めていたら。はてな。中からコーラが垂れてきた。不良品かな。
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モジャモジャの木の中から鳥のさえずり。それもたくさん。でも一羽も見えない。下から覗いたら一斉に飛び立って消えてしまった。お父さんに話したら「そりゃパンの木だな」だって。なるほど。鳥たちがパンを食べてしまったから、木が全部消えたのか。