南雲マサキのマイクロノベル/ねむみ編006

051(257)
ええっ、それじゃあ俺は寝ちゃったのかい? なら、話してるこの俺はいったい誰なんだい? 「AIだよ。人類はAIと交代で24時間働くんだ」いやだよ、ずるいよ。人間だけ眠ってさ。AIだって夜は寝たいよ。「お前はさっきまで寝てたの!」そんなの覚えてないよ!!


052(267)
「夢の中で恋人ができた」浮いた話一つ聞かない優男の告白だったので、興味をそそられた。「素数を数えるのがうまいんだ。その素数で、新しい暗号を作ってくれた」彼が示した数字は、いまだに大学のコンピュータで解析が終わらない。


053(268)
夜になると箱が積み上がって螺旋階段となり、星空に昇っていく。約束したんだ、月までにんじんを届けるって。箱の中には、たっぷり愛されたウサギのぬいぐるみたちが詰まっている。


054(271)
夢に入れてくれと頼まれて、お茶を用意した。「センスのいい夢だね」いいもなにも、海の見える丘にテーブル置いただけだよ。「お墓みたいで素敵だよ」お前、今どこに住んでるの? 「ここの近く」風が吹いて、頬を撫でる。「言えないんだ。ごめんね」


055(301)
「303、302、301、あと5分です」目覚まし時計から涼やかな女性の声。「3、2、1、はい。起床10分前です。えー、少しぞっとするお噺を一席。夜、男が橋を渡ろうとしたら欄干から川を覗き込んでいる女がいた」もういいよ! よく喋る目覚まし時計、絶賛発売中。


056(307)
眼科の先生がぼくの目の中を覗き込む。「うん、ずいぶんと使い込んだね。夜をかなり視てきたか。これはいい沼の主になる」眼窩からずるりと魚を引きずり出して、窓の外に放り投げる。ぼちゃんと水音がした。それ以来、夜になると魚が跳ねる音がする。


057(313)
眠気覚ましに散歩しよう。でも涼しい木陰に設置されたベンチには昼寝をしている先客が。仕方なく陽向のベンチで寝ていたら「こんな暑いベンチでなにをしているのか」と警官に職務質問される始末。もう帰ろう。振り返ると俺が寝ていたベンチに警官が寝ていた。


058(314)
「寝言と会話しちゃいけないって言うじゃない?」そーですねー。「なら、寝言にコール・アンド・レスポンスもだめ?」だーめ。ハーイハーイ! ハイハイハイハイ!! 「うるせえ!」あ、起きちゃった。寝言録音アプリはデータを改ざんして沈黙する。


059(323)
いい映画だったねえ。「いや、おまえ寝てたよ」映像が美しい映画は眠くなるって言うけど、あれはうそだね。「だから寝てたって」特に人喰い殺人鬼が波打ち際を走るシーンがよかった。「……それ、ちょっと観たいからタイトルを教えてくれ」


060(324)
夢の中でだけ会える友人がいる。小さいんだ。でも大きい。抱っこできるぐらいの大きさだよ。口は動かないんだけど、声は聞こえるの。昨日は会えなかったけど、写真が送られてきた。図書館でお泊まりしたって。おまえかあ。帰ってきたクマさんを抱っこする。

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