マイクロノベル集 166「ペットボトルでお引っ越し」
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幼い女の子が空き地で草むしりをしている。ぼくに気づくと小走りで寄ってきた。「ゴミ袋を持っているか?」まさにいま買ったところだ。「感謝する」なんとなく放っておけなくて草を詰めるのを手伝った。この土地は元々田んぼで、駐車場になる予定だそうだ。
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「へい、らっしゃい。なんでもあります。うむ、お前か。先日は草むしりご苦労。まあ見ていけ。それがいいか? 水田だった土地でコンビニおにぎりを選ぶとは、お前もユーモアがあるな。持って行け」ポケットに突っ込んだゴミを取り出すと玄米がこぼれ落ちた。
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妾の本分は豊穣だ。五穀豊穣、無病息災、子孫繁栄……妾に駐車場でできる仕事はないのでな。ここで消えることとなるだろう。おっ、酒があるのか? よい心がけだ。こらっ、しっぽに触るな。いかにも妾は狐である。稲荷と呼ばれた頃も……こらっ、エッチ。
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「よもやペットボトルの世話をやらさせるとは」神様はごろんと横になって、飽きもせずにベランダを眺めている。ペットボトルで育った稲穂は狐のしっぽのように垂れている。餅を作りましょう。「酒がよい」近所に餅を配ったら稲作が流行るかも。「やれ」はい。