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アカデミアで研究者の道に進む博士学生。“生命の起源”を追求した大学院での生活を振り返る

本学の「学術奨励賞」の受賞者が自身の研究を3分間で紹介するホームカミングデイのプレ企画「NU3MT」で、視聴者からの投票により2024年度のグランプリを獲得した工学研究科の沖田ひかりさん(博士後期課程3年)。大学院から名大に入り、“生命の起源”をテーマに研究を続けている沖田さんに、研究を始めたきっかけや、本学での博士生活について聞きました。
 
——グランプリ受賞おめでとうございます。どんなことを思って発表されましたか?
正直自信はありませんでしたが、研究の面白さを伝えたいという一心で挑みました。わかりやすく紹介するだけでなく、とにかく楽しく発表することを心掛けました。どんなにわかりやすく説明したつもりでも伝わらないことはあるので、「何か面白そう!」とか「ワクワクする!」と感じてもらうことが大事だと思っています。
実は、大事な発表の前にはZoomで母に発表を聞いてもらっています。母は研究に関してほとんど知識がないので、どこまでかみ砕いて話せば理解してもらえるかをチェックして、発表内容を精査しています。家族だと遠慮なく意見をくれるのが良いですね。

イラストやかわいらしいフォントが特徴の発表スライド。
見ているだけでも楽しさが伝わるよう工夫しています

——昔から研究が好きだったんですか?
小学生の頃は自由研究が好きでした。近くの湖で採ってきた微生物を顕微鏡で観察してまとめた研究は、小さな賞ですが銀賞をもらいました。ずっと生物や化学は好きでしたが、一番夢中になっていたのは中学から始めた「競技かるた」です。当時は正直、勉強よりも部活に熱中していて、高校時代には全国大会に出場したこともあります。ただ進路を考えるなかで、化学バイオの分野は社会に出たときに役に立つイメージがあって就職に困らないと思い、地元の静岡大学の工学部に進学しました。

昨年末は高校時代に全国大会に出場した当時のメンバーと大会に出場!

——静岡大学から名大の大学院に進学した理由は?
学部でやっていた有機化学やペプチドの研究が楽しく、まだまだ研究を続けたいと思っていました。ただ金銭的に進学するのが難しい状況で、そのときにどうやったら大学院に進めるか、支援制度をたくさん調べました。その中で経済支援が充実している名大の「卓越大学院プログラム(※)」を知り、この制度を活用すれば5年間研究に打ち込める!と思い、名大に決めました。親には「修士課程は半分、博士課程は全額、自分で学費をまかなう」と約束して、進学を認めてもらいました。

 ※卓越大学院プログラム……文部科学省が2018年に導入した5年一貫の博士課程プログラム。大学院生は、海外の研究チームや産業界との共同研究を通して、化学と生命科学、エレクトロニクスと機械工学、医療と情報科学のように複数の専門が融合する領域の研究に携わります。名大では4つの採択プログラムが提供されており、経済支援制度が用意されています
https://dec.nagoya-u.ac.jp/wise_program/

「実験が楽しくてしょうがない」と話す沖田さん。
ひとつのことを突き詰めていく研究と相性が良かったとのこと

——浅沼浩之教授(工学研究科)の研究室に入ったきっかけは?
静大4年生の春に名大の研究室を訪問したとき、浅沼先生が研究内容をすごく楽しそうに話していたのが印象的でした。当時はすべてを理解することはできませんでしたが、楽しく研究している浅沼先生のもとで学びたいと思いました。あとは「“生命の起源”が気になっているけど、まだ手をつけられていない」という話を聞いて、ビビッときたのも理由のひとつです。

浅沼先生(下段中央)をはじめ研究室のメンバーとの集合写真

——名大に入って良かったことは?
卓越大学院の「トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム(GTR)」では、たくさん貴重な経験をさせてもらいました。昨年の夏にはGTRから支援を受けて、イギリス・ケンブリッジにある「MRC分子生物学研究所」で融合研究をしてきました。そこはノーベル賞受賞者を多く輩出している国立の研究所で、生命の起源に関わるRNA(リボザイム)の進化実験をおこなうなど、3ヶ月間研究に打ち込みました。ちなみにイギリスはワークライフバランスの意識が高く、私が朝から晩まで実験していたら研究室のメンバーに“You’re CRAZY !”と言われたのも良い思い出です(笑)。
ほかにも院生がイベントを企画・運営する機会があり、学年や研究科の違う学生とつながりができたことも良かったですね。NU3MTで総長特別賞を受賞した前田明里さんとはGTRの院生企画でつながり、仲良くなりました。

DNAの二重らせん構造の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞した
フランシス・クリックが所属していたイギリスの国立研究所で融合研究に取り組みました

——博士課程修了後は企業ではなくアカデミアの道に進むそうですね。
子どものころから視力が悪かったこともあり、近視を根本的に治療できる薬が作りたく、製薬会社で研究者になりたいと思っていました。ただ、名大で開かれている企業の採用担当者と博士学生が交流するイベントに参加して、考えが変わりました。企業での研究は世間のトレンドが影響することもあるそうで、急な方向転換や制約があると知り、もっと自由に研究したいという気持ちに気付きました。それに浅沼先生から教えてもらったJST(科学技術振興機構)の「ACT-X」という若手研究者が対象となる支援プログラムに、自分自身で考えた新たな研究内容で申し込んだところ、幸運にも採択されたことで自信がつき、アカデミアに進む決心がつきました。
春からは東京科学大学の総合研究院 生体材料工学研究所 鳴瀧研究室で助教のポストを用意いただき、研究を続けることになりました。ここ最近は女性の研究者を積極的に採用する流れがあったりして、タイミング的にも恵まれていたと思いますし、お声がけいただき本当に感謝しています。
 
——研究をどのように発展させていきたいですか?
人工生命を創ることに挑戦したいです。そもそも生命の定義として挙げられるのが、①遺伝物質を自ら増やせるか、②外界と区切られているか、③代謝できるか、の3つ。今の研究室では人工的(化学的)に遺伝物質を増やすことに成功したので、残りの2つも挑戦したいですし、これこそアカデミアでしかできないことだと思っています。大変な道のりだとは思いますが、これからも楽しく研究したいですね!

昨年11月に開かれたテクノ・シンポジウム名大2024「女子学生のための工学セミナー」で
博士学生を代表して研究内容や普段の生活を紹介
趣味は大学院から始めた「二胡」をはじめ、動物観察や漫画などさまざま。
たぬき(右上)と鏡ヶ池のカワセミ(右下)は沖田さん撮影

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