53. 美味しいだけじゃない!サツマイモの強さの秘密
今回は、サツマイモが痩せた土でも育つ強さの秘密に迫る研究を紹介します。経済学研究科修士2年の堀内愛歩です。
みなさん、サツマイモは好きですか?小さい頃に芋掘りや焼き芋をしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?天ぷらやけんちん汁、大学芋にスイートポテト…。サツマイモ料理には人気メニューも多いですね。
サツマイモは、江戸時代の飢饉や戦中戦後の食糧難の時代に、痩せた土地でも育つ「救荒作物」として広く栽培されてきました。しかし、なぜサツマイモは痩せた土地でも育つのか、ずっと謎に包まれたままでした。
ところが近年になり、サツマイモのゲノムから意外な遺伝子が見つかりました。アグロバクテリウムという病原菌の遺伝子です。サツマイモの祖先が、およそ130〜50万年前に感染したと推定されるそうです。
通常、植物にとって必要ない遺伝子は進化の過程で失われていきますが、この病原菌由来の遺伝子は現代までサツマイモに残り続けています。ここに、サツマイモが痩せた土地で育つ理由が隠されているかもしれません。名古屋大学の竹本大吾准教授の研究グループがその謎に迫りました。
研究グループは、見つかった遺伝子の中でも特に、アグロシノピンAを合成する酵素の遺伝子に注目しました。アグロシノピンは、病原菌アグロバクテリウムの「餌」となる物質で、アグロシノピンAはその仲間です。この物質は植物にとっては栄養源にならず、サツマイモには作るメリットのなさそうな物質です。
ところが、このアグロシノピンAをつくる酵素の遺伝子が、地下のイモから地上のツルや葉まで、サツマイモ全体で機能していました。実際にサツマイモからアグロシノピン様の物質も検出されました。サツマイモにとっては病気に感染するリスクが高まりそうですが、きっと何かしらのメリットがあるはずです。
病原菌アグロバクテリウム以外にアグロシノピンAを利用できる微生物がいるのではないか―。
グループが、アグロシノピンAをつくる植物の根周りの土に特有の微生物がいないか調べたところ、グラム陽性菌の一種であるレイフソニア属の細菌が見つかりました。その昔、サツマイモが病原菌から受け取った酵素遺伝子が、土の中の特定の微生物を引き寄せる物質を生産し、土の中の微生物バランスをコントロールしている可能性が見えてきたのです。
興味深いことに、この病原菌由来の遺伝子を失うとサツマイモは育ちにくくなるそうです。研究グループは現在、この遺伝子を失って育ちにくくなったサツマイモと、通常のサツマイモの育つ土の中を比較することで、サツマイモの生育を促進する微生物を研究しています。この微生物が、未来の農業の鍵になるかもしれません。
研究を行った田中愛子 博士研究員からのコメントです。
この研究について詳しくは、2022年3月2日発表のプレスリリースをご覧ください。
(文:堀内愛歩、丸山恵)
◯関連リンク
名古屋大学生命農学研究科
・植物病理学研究室(竹本大吾准教授が所属)
・分化情報制御研究室(田中愛子研究員が所属)
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