アスベスト発がん、鉄のシワザ?【34】
アスベストと肺がんの関連はよく知られています。
実は、そのメカニズムはよく分かっていませんでした。
今回は、細胞外小胞(エクソソーム)に着目し、アスベストがどのようにがんを引き起こすのか、仕組みを解明した研究をご紹介します。
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アスベストという言葉はニュースでもよく聞きますが、建築材料としても使われていた天然の鉱物です。肺がんになる可能性があるとして、今も問題になっています。
ただ、なぜがんになるのか、分かっていない部分がありました。名古屋大学の豊國伸哉教授のグループは以前からこの問題に取り組んできていて、今回、最近のがん研究で注目を浴びる細胞外小胞が、アスベストによる発がんにも関わっていることを発見しました。
細胞外小胞は、細胞から細胞へ情報を伝えるために細胞から分泌される、手紙のようなものです。エクソソームとも呼ばれます。アスベストが細胞に炎症を引き起こすと細胞が死んでしまのですが、この時にも細胞外小胞が分泌されます。この細胞外小胞には、フェリチンという、鉄を貯蔵するかごのような役割の物質が多く含まれています。
フェリチンは、細胞外小胞とともに、肺やおなかの内側にある中皮細胞という細胞に取り込まれます。鉄を多く含んだフェリチンは、細胞が分裂するとき、DNAを傷つけます。これにより、腫瘍やがんが発生していたのです。
細胞外小胞が細胞に取り込まれなければ、中皮細胞に鉄やフェリチンが溜まることはありません。これを叶える治療薬があれば、すでにアスベストを吸ってしまった人の発がんを食い止められるということですね。
実は、細胞外小胞が細胞に取り込まれるという現象を捉えるのはなかなか難しいそうです。研究を行った豊國教授のグループの伊藤文哉研究員によると、細胞外小胞を分泌する細胞(ドナー細胞)については研究がかなり盛んで、回収や分析で困ることはあまりない一方で、細胞外小胞を受け取る細胞(レシピエント細胞)については、どの経路を通って細胞の内部に到達するのか、研究者の間でも意見が一致していないということです。
伊藤研究員から、今回の研究のポイントと、一歩踏み込んだコメントをいただきました。
本研究は、細胞外小胞の内部のフェリチンにより、レシピエント細胞が予期しない形で鉄過剰となることががん化につながることを明らかにしました。フェリチンは普通の細胞でも発現しているタンパク質の1つなので、フェリチンが直接病態に関与するまでにはもう1つ「フェリチンの崩壊」というステップがあると考えられます。オートファジーの1種のフェリチノファジーのような現象が、フェリチンの崩壊を起こしているのではないか、また崩壊したフェリチンからDNAを傷つけるような反応性の高い鉄が放出されているのではないかと考えています。
詳しくは、2021年11月4日発表の、名古屋大学研究プレスリリースもご覧ください!
制作協力:髙山楓菜(名古屋大学理学部3年)
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