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回転×AIでピンボケを消す?新しいX線顕微鏡技術の誕生

カシャッ📷
うわ、ピントがボケている…😰
なんていう経験、ありませんか?

「そんなボケをAI技術で取り除くことができました。」

なんと、そんなことができるんですか😥!?
そう楽しそうにお話されるのは、名古屋大学の松山 智至まつやま さとしさん(工学研究科 教授)です。

松山 智至まつやま さとしさん(工学研究科 教授)

松山さんはこれまでにX線顕微鏡の「精度」を極めるため、「いい光源」「いいレンズ(鏡)」を極めてきました。

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──松山さんの極めたレンズと光源を使えば、ボケなどないのでは?

いやいや、なくすことは難しいですよ。でも今回は、精度が低い顕微鏡を使って撮ったボケた写真でも、工夫すればすごくキレイな絵になるんじゃないか?というアプローチです。

──なるほど。そうすればどんなX線顕微鏡でも撮影できますもんね。

そうなのです。X線顕微鏡の難しさって「レンズ(鏡)」なんです。それで世界中でいろいろな提案があって、私たちは可変式の鏡を使っているんですけど、コストと労力を惜しまず作製したとしても、そもそも完璧なX線レンズの作製は現代の技術力をもってしてもほとんど不可能です。

──それで今回のアプローチ、なのですね。

ボケの原因って、レンズとか鏡の誤差なんです。なので、そのレンズ自体の誤差をなくそうとしたのが前回の方法。もう一つは、ズボラな方法ですが、コンピューターに除去させる方法。これは可視光領域だといろいろなやり方があるのですが、X線領域だとこれが難しくてできないんですよね。そこで考えたのが今回の方法です。ボケを試料像から分離しちゃおう、っていう。

──写真からボケを分離??

いろんな方法を試したんですが、一番簡単な方法で「回す」ことにしたんです。面内回転運動をうまく使ってできるんじゃないか、っていうのが今回の新しい発見です。すごく簡単な方法なので誰かやってるんじゃないか?と思って調べたのですが、実は誰もまだやっていなくて。

松山さんの今回の成果を簡単に図で説明いただきました。面内回転する試料の写真を何十枚と撮影し、それをAIに学習・解析させ、試料情報とボケとを分離することが可能となるようです。
(画像はプレスリリース本文より)

──なぜ「回す」のですか?

ボケはレンズ由来のものなので、試料を回転させると、ボケは動かずに試料だけが回転します。つまり、試料の情報とボケの情報が別の動きをしているので別々の情報(振幅と位相)として取り出せるのです。平行移動だとボケと共に試料が動くだけなので、ダメなんです。回転させるってことがとても大事。

汚れたレンズを用いてX線顕微鏡にて試料の写真を何十枚と撮影します。その写真を解析すると、試料の情報とボケの情報が別々の情報(振幅と位相)として取り出すことができるんだそうです。(画像は松山さんより提供)

──機械で回しているんですか?

はい。専用の機械で回していますが、その台座に設置させるのはがんばって人間の手で調整しています。もう卒業しちゃった栗本君が主体で進めていたのですが、彼がこの調整をしていました。彼はすごくて、1ミクロンの誤差程度で回転中心を合わせてくれたんです。

今回の研究で栗本さんは日本光学会の2023年度「AI Optics優秀発表賞」を受賞しました。また、それだけでなく、専攻の修士論文発表でなんと1位!専攻の代表になり、昨年度は工学部の総代として学位記を授与されたようです。緑色のガウン、素敵です!!

──スゴイ…栗本さんの神業ですね🧐

それでも回転ステージのブレや実験誤差が生まれます。それを正しく推定し再構成させるためにAI技術、特にニューラルネットワークを活用しています。ただし、ニューラルネットワークのみでは無秩序に生成される可能性があるので、物理的な制約条件を導入しました。「この実験データに矛盾せず、この条件を満たさないといけません!」っていう条件を課すことで、推定した情報から実際の実験結果を再現できるほどの推定精度になったと思います。

今回のAIは特化型であり学習するデータセットは1つのサンプルのみにされているそうです。1つのサンプルの角度を少しずつずらして数十枚撮り、それをgoogleのサーバー上でAI学習をさせているんだとか。わずか10分程度で学習ができるそうです。

──この技術を使うと、どれだけボケてしまっていてもキレイな写真にできる、ということですか?

そうですね、元々の写真をゆうに超えた分解能の写真ができると思います。実験誤差もAIで修正できてしまいますね。実験データに矛盾しないものを作れ!という拘束をかけているから、この技術で得られる画像は実験を一番正しく反映させているものだと思います。

──となると、元々極めていたレンズを用いてこの技術を使えば…史上最強のX線顕微鏡ができるのでは?

そうそう、そうなるでしょ?実は試していますよ。でも、このウルトラCの2個を組み合わせるっていうのがなかなか難しい現状です。私達の作った最高のレンズを使って、今回のAI技術がバチッと合えば、更に分解能が上がる余地があるかもしれませんし、この技術を掛け合わせた別の応用方法も考えているところです🤫㊙️。

── X線顕微鏡の分野にAIの技術を活かした松山さん。ウルトラCがうまく合わさった先にあるX線顕微鏡の分解能はどうなるのでしょうか…そして何が見えていくのでしょうか…🔬

松山さんの授業を受けたい!みなさんへ
「私は全学部の1年生対象の『基礎セミナー』で、自作の顕微鏡を作って観察する授業をしています。実は「水滴」もレンズになるんですよ!学生さんには自分で何をレンズにするのかを考えて貰っています。皆さんは何をレンズにしますか??一緒に顕微鏡の面白さに触れてみましょう!」

松山さん(写真右)が試行錯誤してスライドガラス上に水滴をポトリ。その中にメダカの卵を載せ、タブレットのカメラでピントを合わせると…拡大されたメダカの卵が🧐!学生さんはいろいろなレンズを作ってくるようで、松山さんも驚くこともあるんだとか。面白そうです☺️。

インタビュー・文:坪井知恵(名古屋大学URA)


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