患者さんに届け!光と免疫の新がん治療【35】
光と免疫反応で相乗効果を生む「近赤外光線免疫療法」。
もっと多くの患者さんに届けたいという研究者の思いが実り始めました。
細胞実験では期待できなかったその効果をマウスで試すと…!
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がん治療というと、手術や放射線、抗がん剤のイメージが強いですが、最近は免疫療法も注目されていますね。そのうち、“免疫チェックポイント阻害薬”は、2018年に本庶佑先生がノーベル賞をとったことでも注目されました。
人はもともとがん細胞を攻撃してくれるT細胞を持っています。でも、がん細胞はT細胞からの攻撃から逃れて生き延びるために、免疫チェックポイント分子と呼ばれるタンパク質を活用しています。例えば、がん細胞がつくるPD-L1という免疫チェックポイント分子は、T細胞の免疫反応を弱めてしまいます。免疫チェックポイント阻害薬で有名なオプジーボは、PD-L1がT細胞を弱めるのを防ぐ薬です。
免疫チェックポイント阻害薬は様々な臓器のがんに効果がありますが、薬の効果がそこまで強くありません。そこで名古屋大学医学研究科のグループは、この薬と組み合わせると理想的といわれるある治療法に着目してきました。近赤外光線免疫療法です。
近赤外光線免疫療法は、人に無害な光と免疫療法を組み合わせた治療法です。がん細胞がつくるタンパク質に光を受け取る物質を結合させ、そこに光を当ててがん細胞を破壊します。光を当てたがん細胞だけでなく、光を当てていないがん細胞や転移したがん細胞にも効果が期待できる画期的な治療法です。ただ、光を当てる目印となるタンパク質が限られていて、治療を受けられる患者さんも限られていました。
そこで、研究グループが着目したのがPD-L1です。PD-L1は、比較的多くのがんでつくられるタンパク質だからです。PD-L1に光を吸収する物質を結合させ、そこに光を当ててがん細胞を破壊します。マウスで実験すると、光を当てた表面のがん細胞だけでなく、光の届かないがん細胞にも効果があり、マウスの寿命が延びました。
実は、マウス実験の前に細胞で行った実験では、目印となるPD-L1が少なく効果は望めないと見られていたので驚きの結果だったそうです。マウスでの効果を分析すると、がん細胞を攻撃するT細胞などが活性化する一方、免疫の働きを抑えてしまう細胞は減っていたとのことです。いくつもの反応が相乗効果を生み出したのですね!
この成果は、今まで近赤外光線治療の対象にならなかった患者さんに対象を広げる第一歩となりそうです。既に使われている治療法の組み合わせというのも、実用化を早めるポイントですね。
研究を行った佐藤和秀特任助教からのコメントです。
近赤外光線免疫療法は、がんの目印となる高発現の特異的なタンパク質が必要で、適応となる患者さんが限られてしまうことが想定されています。
そこで、この素晴らしい治療技術を幅広くがん患者さんに届けることができる代替案としての治療が必要です。その治療標的としてPD-L1は有望と思われ、高発現の特異的な標的を持たないがん患者さんへの、近赤外光線免疫療法の治療手段の選択肢の一つとなりえると考えています。
近い将来にがん患者さんに本方法で貢献できるようにしたいです。
詳しくは、2021年11月2日発表の名古屋大学研究プレスリリースもご覧ください。
制作協力:小川詩織(名古屋大学理学部4年)
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