ジャガイモの「免疫」を活性化!農薬を使わない新たな疫病菌対策の可能性
ジャガイモは、春と秋の2回の旬があるのを、皆様ご存じでしたか🥔?北海道が一大産地ですが、寒い地域では春に植えて秋に収穫されます。一方、北海道に次ぐ産地である鹿児島や長崎では、冬に植え付けて春に収穫します。そんなジャガイモは高温多湿な環境が苦手で、病気になって腐りやすくなります。ジャガイモに感染する病原菌のうち最も怖い「ジャガイモ疫病菌」は気温が20℃くらいになると発育し、湿度が高くなると活動が盛んになります。また、水の中を泳いで胞子が飛散することから、長雨の後に急激に感染が拡大するケースもあります😖。そんな恐ろしい疫病菌からバイオスティミュラント(植物を活性化する物質)で作物を守ろうと考えているのが、名古屋大学の竹本大吾さん(生命農学研究科 教授)です。今回の先生の最新の研究成果についてお話を伺いました。
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── ジャガイモ疫病菌はどれほど怖いものなのですか?
ジャガイモ疫病菌はジャガイモにしか感染できない病原性の強い菌です。すごく健全に育っている圃場でも、この病気が発生すると数週間で破壊的な被害が出ます。世界的にも約1兆円ほどの被害が毎年出ていると言われています。
── 数週間で圃場がこんな状況に・・・これは泣くに泣けませんね。
北海道や長崎で何も農薬を使わずに栽培すると、まず間違いなくジャガイモ疫病菌で植物は枯れてしまう状況です。今は農薬でそれを防ぐだけでなく、病気にある程度強い系統も開発はされていますが、やはり農薬なしでは病気が出てしまう状況です。
── なるほど。そこでバイオスティミュラントでジャガイモ疫病菌から作物を守る、ことを考えられたのですか?
元々、ジャガイモ疫病菌に強い品種っていうのは分かっているのですが、それはどうやって病原菌を認識してるんだろうか?どういう物質を認識しているのだろうか?それを探そうというのがこの研究の最初の目的でした。それが明らかにできれば、もしかすると病原菌に含まれる物質が、植物の中で認識されて免疫反応が起こっているのかな、と。
── 具体的にどのような実験をされたのですか?
まずは、ジャガイモ疫病菌をすりつぶしジャガイモにかけてみたところ、ジャガイモの抗菌物質の生産量が増えました。じゃあ次は、菌体内の「何」がジャガイモの抗菌物質の生産量を増やしたのか、を明らかにする為に、菌体の抽出液から純物質にしていく作業をどんどん繰り返していき、その「何か」を調べていきました。
── ものすごく大変な実験だったと想像できます・・・。
多くの先生方や学生さんと分担して進めていきました。その結果、その「何か」が、ジャガイモ疫病菌の細胞膜に含まれる成分であるセラミド化合物(Phytophthora infestans Ceramide, Pi-Cer D)とジアシルグリセロール化合物(P. infestans Diacylglycerol, Pi-DAG A)であることが分かりました。しかも、 Pi-Cer Dのセラミドはキノコに入っていますし、Pi-DAG A の不飽和な鎖の部分の構造は魚に多く含まれるEPA(エイコサペンタエンサン)なのです。
── え!?ならばキノコや魚の抽出液をかければ、それでジャガイモ疫病菌を防げる可能性もあるのですか?
あるかもしれません。キノコの根っこの部分や青魚の廃棄部分を集めて抽出すれば、コスト的に安くバイオスティミュラントが作れるんじゃなるんじゃないか、と考えています。病気になりそうな様子の時には、病害抵抗性をより活性化するオプションとして使うようなイメージの資材が作れればいいな、と思っています。それができれば多くの点で環境にも優しいですしね。
── キノコや青魚の残渣がバイオスティミュラントとなって生まれ変わり、ジャガイモの救世主となるだけでなく、フードロスや農薬による環境汚染などの環境問題も解決できる・・・まさにSDGsですね!!竹本さん、ありがとうございました。
インタビュー・文:坪井知恵
◯関連リンク
プレスリリース(2024/6/3 )「植物の免疫力を向上させる2種の物質を特定 ~"病気に強い"農作物をつくる農業資材の開発に貢献~」
論文(米国の国際学術誌「Plant Physiology」誌に掲載。論文タイトル:Two structurally different oomycete lipophilic microbe-associated molecular patterns induce distinctive plant immune responses.)
植物病理学研究室(名古屋大学 生命農学研究科)
植物の基礎体力UP!企業と大学が共同開発した「バイオスティミュラント」を使ってみよう(2024/8/8開催 産学連携ワークショップ) 👇👇👇👇👇👇👇👇👇👇👇👇
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