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50. 植物の気孔はじっくり時間をかけて作られる!

植物の気孔ができるときに、細胞分裂でどのようなことがおきているのか、明らかになりました。世界を変える新しい分子を発見・開発するトランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)イチオシの研究成果です。

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植物の体の表面にある気孔は、孔辺こうへん細胞という1対のゼリービーンズのような形の細胞からなり、まるでヒトの唇のような形をしています。その間のわずかな隙間を開閉し、二酸化炭素や酸素などのガス交換と水分調節をおこなっています。

気孔は、植物の成長と生存に必須な細胞器官といえます。

気孔は、そのもととなる幹細胞が非対称な増殖分裂を繰り返した後、一回だけ厳密に対称分裂し、完成します。細胞分裂では「細胞周期」という一連のプロセスが厳密に制御されていますが、これまで、増殖分裂と対称分裂に切り換わる仕組みは分かっていませんでした。

そこで、研究グループは、細胞周期の各時期で異なる蛍光を発する分子を用いて、生きたまま細胞分裂を詳細に観察し、その速度を比較しました。その結果、増殖分裂に比べ、対称分裂では速度が遅いことがわかりました。

次に研究グループは、細胞分裂が遅くなるしくみを明らかにするため、気孔分化の司令塔MUTEミュート遺伝子の下流にある細胞周期阻害因子のSMR4に着目して実験をおこないました。

ゲノム編集技術を用いてSMR4を欠損させると分裂速度は速くなり、逆に、過剰に発現させると分裂速度が遅くなることを発見しました。いずれも、細胞周期のG1期に大きく影響を与えており、SMR4が分裂を進めるタンパク質のサイクリンに直接結合して、その周期にブレーキをかけることが示されました。

また興味深いことに、初期の幹細胞にSMR4を過剰に働かせ、分裂を無理やり減速させると、細胞が大きくなり歪んだ形の気孔が生じました。

一般に細胞分裂の初期のG1期は、細胞がその数を増やすために分裂するか、細胞の性質を変えて分化するかを決める重要な時期とされており、この時期の細胞周期の速度が気孔の形成に重要であることが明らかになりました。

私たちヒトを含む動物において、細胞周期のG1期の制御異常が、細胞のがん化に深く関わることが知られています。今回、動物とは全く異なる細胞分裂様式を持つ植物細胞においても、細胞周期阻害因子によるG1期の減速が、気孔という特殊な細胞の幹細胞増殖から分化への切り換えや正常な形の気孔が完成するプロセスに必須であることが明らかになりました。

さらには、これらの知見は、細胞周期の速度調節によって、植物の細胞の形、大きさ、アイデンティティーを操作できる可能性も示唆しています。

研究を行った鳥居啓子とりいけいこ主任研究者からのコメントです。

顕微鏡を用いて、植物細胞の細胞周期をライブで観測することができるようになったことが、今回の発見につながりました。動物の幹細胞や植物の気孔、という全く異なる細胞が分化する際の「細胞周期速度の減速」という共通性もわかり、あらためて植物の研究の面白さ、幅広さを実感しています。

詳しくは、2022年2月11日発表のプレスリリースもご覧ください。

(トップ画像提供:ITbM/文:三宅恵子)

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◯関連リンク

鳥居啓子 主任研究者・客員教授(アメリカテキサス大学オースティン校教授)

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