48. 方角を感知、渡り鳥のナビシステム
もうじきツバメがやってくる時季ですね。第48回目の今回は、渡り鳥が迷わずに目的地にたどり着く不思議に迫る研究です。
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ツバメのように夏を日本で過ごし、冬に南に移動する渡り鳥を「夏鳥」といいます。今回は、夏鳥の一種「オオミズナギドリ」に着目した研究です。
オオミズナギドリという名を初めて聞く方もいるかもしれませんが、バイオロギングという分野では世界で最も研究が進んでいる動物の一つだそうです。バイオロギングは、生き物を意味する「バイオ」と記録することを意味する「ロギング」を合わせた言葉です。野生動物に小型の装置をつけて、位置や生態情報を記録する方法です。
バイオロギングを活用した研究は、オオミズナギドリが海を渡る際、水面を切るようにすれすれのところを滑空飛行するという特性を明らかにしてきました。そして、この鳥は険しい山が多い日本の陸地を迂回することから、基本的に陸上は飛ばないといわれていました。
ところが数年前、まだ迂回ルートを知らないオオミズナギドリの幼鳥が、険しい山を超えて太平洋に到達していたとの報告がありました。ルートを知らないのに、目的の南へ進める背景にどんなメカニズムがあるのか、名古屋大学と同志社大学の研究グループが取り組みました。
グループがニューロ・ロガーという装置を使って、オオミズナギドリのひなの脳の活動を記録したところ、方向感覚を司る脳細胞が存在することがわかってきました。
方向感覚を司る細胞は「頭方位細胞」といい、マウスやラット等の多くの生物が持っています。特定の方向を向くと活発になる細胞で、生物の移動に重要な役割を果たしていると考えられています。ただ、頭方位細胞の中には北を向くと活発になるものもあれば、南を向くと活発になるものもある、といったように、特定の方向にだけ活発になるわけではないため、地磁気とは無関係と考えられてきました。
ところがオオミズナギドリの頭方位細胞には、北を向くと活発になるものが多く存在しました。研究グループは、北を向いて頭方位細胞が活発になることがアラートとなり、うまく南に進めると考えています。目的方向の南を向いたときに細胞が活発になったほうが良さそうに思えますが、そうすると南方への渡りの間、常に細胞が活動する必要があり、エネルギーを消耗します。間違って北を向いたときだけ知らせてくれれば、南に向かえるということですね。
研究を行なった依田憲教授からコメントをいただきました。
地球上を大移動する動物たちは、脳内にも卓越した能力を備えているはずですが、ほとんどわかっていません。今回の生態学と神経科学の共同研究のように、今後も分野の垣根を越えて研究することで、渡りや回遊といった魅力的な行動の裏にあるしくみが明らかになることが期待できます。
詳しくは、2022年2月4日発表のプレスリリースもご覧ください。
(文:遠山祥史、丸山恵)
◯関連リンク
・YODA Lab(環境学研究科 依田憲研究室)
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