ハイランドカープ続報。赤ちゃんを雑菌から守るのは? 【32】
卵ではなく、赤ちゃんを産む魚「ハイランドカープ」。
お母さんのお腹の中で栄養に包まれた赤ちゃんを雑菌からどう守る⁉
どうやら、遺伝子レベルのメカニズムがありそうです。
↓音声でもお届けしています♪
今回は、赤ちゃんを産む魚の研究の続報です。第16回目の配信で、ハイランドカープという胎生魚がお母さんのお腹の中で栄養を受けとる「栄養リボン」についてお伝えしました。
その後、ハイランドカープのお母さんと赤ちゃんの栄養の受け渡しについて調べていく中で、新たに浮上してきたのは「卵巣の中で雑菌が繁殖してしまわないか?」という問いです。卵巣の中は液体で満たされていて、そこにお母さんからの栄養が溶けています。この栄養が有害な微生物のエサになり、卵巣の中が雑菌だらけになってしまわないか、という問いです。
そこで、遺伝学的な手法で卵巣を調べると、菌の増殖を抑える働きを持つペプチドの関与が見えてきました。ペプチドとはアミノ酸がつながったものですが、ハイランドカープの卵巣ではLEAPという抗菌ペプチドをつくる遺伝子が盛んに発現していたのです。
LEAPをつくる遺伝子は4種類ありましたが、大腸菌の繁殖を抑える作用を調べた結果、特にleap1aという遺伝子に、強い抗菌能力があることがわかりました。leap1a遺伝子が、卵巣の中の赤ちゃんを雑菌から守るしくみのカギを握っているかもしれない、そんなメカニズムが見えてきたのです。
研究を行った飯田敦夫助教からのコメントです。
初めから狙って実験したのではなく、他の目的で実施した解析の結果を眺めているうちにふと気づき、そこから膨らませた研究です。この手の予想外なアドリブ展開は、基礎研究の醍醐味のひとつだと考えています。
私も飯田先生が経験されたような「意外な発見」の瞬間に立ち会ってみたいです。2021年10月1日発表のプレスリリースには、他の生物でもいろんなかたちの胎生があることが書いてあり、奥深いなぁと感じました。この世界、今後も注目していきたいです。
画像提供:飯田敦夫助教
制作協力:石橋果歩(名古屋大学理学部4年)
◯ 関連リンク
・飯田敦夫助教HP