続・患者さんに届け!──がん光免疫治療はコレでもっとスゴくなる
光と免疫反応で相乗効果を生む「近赤外光線免疫療法」。手術、放射線、化学療法、免疫療法に次ぐ「第5のがん治療」に位置づけられ、画期的な治療法として注目されています。しかし2023年現在、治療の対象は頭や首周辺のがんに限られています。
患者さんの負担を減らして治療効果を上げたい──。
対象とならない患者さんにもこの治療を届けたい──。
名古屋大学では、より多くの患者さんにより効果的な治療を届けるべく、模索を続けてきました。
研究をリードしてきた佐藤和秀さん(医学系研究科 特任講師)は「治療効果を瞬時に評価できないこと」を課題視していました。
近赤外光線免疫治療は、光に反応する薬剤(がん細胞を標的とする抗体と光を吸収する物質の複合体)を患者さんに注射し、がん患部に光を照射することでがんをやっつける治療法です。ただ、光の照射が足りないと十分な治療効果が得られません。追加の治療が必要になったり、再発につながることもあります。
研究チームが試行錯誤を重ね、たどり着いたのは、超音波検査を使い照射が十分かどうかをリアルタイムで評価する方法です。ポイントは、検査に使う造影剤がすでに承認されているということ。研究をリードする佐藤和秀さん(医学系研究科 特任講師)は、数年での実用化を期待していると話します。
「肝臓がんって超音波検査してもなかなか判別しづらいんです。それで使われているのが『マイクロバブル』という微粒子を含む造影剤です。これを使うと、マイクロバブルが血管を通じて腫瘍に溜まり、がんがくっきり見えるんです。これを応用したのが今回開発した方法です。」
近赤外線免疫療法を受ける患者さんは、腫瘍の大きさにもよりますが、平均3〜4回程度の治療を受けるといいます。光の照射が足りず追加治療を行っているケースも多いそう。マイクロバブル造影剤の超音波検査を治療とセットで行うことで、4回だった治療を3回に、3回だった治療を2回に、患者さんの負担を減らしながら治療効果UPが期待できるのです。
近赤外線免疫療法は、今後、治療の対象が広がるといわれています。佐藤さんによると、マイクロバブル造影剤の超音波検査は、基本的にどの組織のがんでも使えるとのこと。治療+検査のセットがスタンダートとなり、よりよい治療を患者さんに届けることが佐藤さんの願いです。
ところで、以前フロントラインでは、佐藤さんのこんな研究活動もとりあげました。
「マスクに穴を開けるだけ」というコスパ重視な発想は、今回の「すでに承認されている超音波検査&造影剤を使う」という成果に通ずるところがあるような…。
「10年後にできる技術ではなく、今困ってる現場に還元したいんですよね。e-maskは、コロナ禍で患者さんが内視鏡検査に消極的な状況を今すぐに何とかしたいと思い、即実行しました。今回も、患者さんに数年以内に届けたいと考えると、既存の認可済みの超音波検査で新しい効果を出すということになるんです。ちょっと貧乏くさいですが、医療にとっては重要な視点だと思いますね(佐藤さん)。」
現場の声に耳を傾けることを大事に、これからも臨床と研究の両輪でやっていきたいと語る佐藤さん。インタビューを、ポッドキャストで配信しています。ぜひお聞きください↓
(インタビュー・文:丸山恵)
◯関連リンク
プレスリリース(2023/8/7)「マイクロバブル造影超音波画像で
近赤外光線免疫療法の治療効果を予測~新規概念を確立し、バイオマーカーで簡便にその場推定が可能に~」論文(2023/8/7 医学医療科学総合誌「EBioMedicine 」に掲載)
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