GO ―極寒北極の夜空、飛び立つオーロラ観測ロケット―
オーロラ観測は、一体全体どのように行われているのでしょうか。夜のとばりが下りる頃、どきどきワクワクしながら、オーロラ研究のスペシャリストに観測の技術と研究の「今」を伺いました。12月4日の第98回名大カフェ「GO ―極寒北極の夜空、飛び立つオーロラ観測ロケット―」をレポートします。
ゲストに迎えたのは三好由純さんです。ナビゲートは、髙橋将太さん(しょーたくん)。
三好さん:専門は、宇宙空間プラズマ物理学や宇宙電気ですが、「オーロラの研究をしています」と紹介することが多いです。ブラックホールとかアンドロメダ星雲とかそういう遠い宇宙ではなくて、もう少し地球に近いところで、宇宙と地球のつながりを研究しています。
なぜオーロラを研究するの?
三好さん:オーロラは、高さ100kmより高い宇宙と地球の間で起きている発光現象です。その源は宇宙空間からやってきている電子で、時々ものすごく増えたり逆に消えてしまったり、激しい変化をしています。オーロラの観測を通して、宇宙のプラズマの研究を進めています。
しょーた:プラズマっていうのは何ですか。
三好さん:プラズマテレビとかプラズマクラスターといった家電で、単語自体は聞いたことがあるかと思います。エネルギーを上げていくと固体液体気体と状態が変わり、ついには原子核とその周りの電子が分離してしまいます。原子が電子とイオンにわかれて動き始めた状態をプラズマと呼びます。
しょーた:プラズマと電子は何が違うんですか?
三好さん:プラスのイオンとマイナスの電子が同じ数あるのがプラズマです。固体、液体、気体につぐ「第4の状態」ともいい、不思議な性質を持つんです。地球の周りのプラズマがどのように変化し、どのように増えたり減ったりするのかを研究するために、オーロラの形とか色とか動きを通して調べているんです。
北海道のオーロラが赤いのはなぜ?
しょーた:このイベントの前の週に、北海道で、肉眼でオーロラが見えたというニュースがありました。赤く見えたのはなぜでしょうか。
三好さん:宇宙からやってくる電子のうち、エネルギーが低い電子が地上200〜300kmぐらいで酸素と衝突すると、赤く光ります。エネルギーが高い電子は、空気が薄い空間を突き抜け、空気が濃くなる地上100kmくらいで酸素とぶつかります。すると緑色に光るんです。例えば、カムチャッカ半島みたいなところでオーロラが光っているときは、北海道から見ると緑の部分は地平線の下になります。北海道は、実は結構オーロラが見えていて、肉眼で見えなくても高感度カメラを使うと、赤く光っているのが見えるんです。
しょーた:光の屈折でできる虹とオーロラは、発光メカニズムが全然違うんですね。
三好さん:そうですね。虹にはあらゆる色がありますが、オーロラは七色ではなく決まっている色しか光りません。電子が酸素にぶつかると緑や赤で光り、電子が窒素分子にぶつかると紫や青に光ります。今のところ、黄色やオレンジ色のオーロラは、地球では観測されていません。木星のオーロラはピンク色です。水素にぶつかるとピンクに光るからです。だからオーロラの色を見れば、その惑星の大気に何が含まれているのかがわかってくるわけです。
しょーた:いわゆるスペクトル分析ですね。さて、愛知県でもオーロラが見えるのか?という質問を参加者の方からいただきました。
江戸時代に愛知県でもオーロラが見えた!?
三好さん:はい。国立国会図書館に名古屋で見えた明和7年のオーロラの記録があります。東アジア一帯で1770年9月17日に北の空が真っ赤になったという記録があり、この絵は地球の磁力線に沿って電子がやってきて光っている証拠になります。
三好さん:私たちの研究所に、早川尚志さん(宇宙地球環境研究所 特任助教)という文学部出身の研究者がいまして、いつどこでオーロラが光ったか、歴史書や文献の記録を探しています。同じ日に、日本のあちこちで赤い光が見えたという記録がちゃんと残っていますし、中国でも同じ記録があったそうです。
しょーた:中国でも!?
三好さん:太陽は100年に1回とか1000年に1回とか、とてつもない爆発を起こす星だとわかっています。明治時代に、多分私たちが出会ったことがないような大爆発が起きていたんだと思います。
しょーた:太陽の爆発が大きければ大きいほど、普段見えないような場所でオーロラが見えるようになるんですね。
三好さん:でもそうなると危ないんですよ。
宇宙の天気予報が防災につながる
三好さん:今回も、太陽の状態がいつもとは違っていて、おそらく大爆発を起こしています。何が起きるかというと、例えば2003年には「みどりⅡ号」(環境観測技術衛星)が壊れました。1989年には北米が大停電を起こしています。スマホやカーナビにはGPSが入っていますよね。私たちの社会は宇宙にもインフラがあって、太陽の影響で使えなくなったり壊れたりすることが容易に起きるのです。ですので、宇宙環境や宇宙天気を研究するっていうのは、もちろん物理として大変面白いんですけど、私たちの社会生活にとって被害や影響がどれぐらいおよぶのか、防災という側面も持っています。
しょーた:宇宙旅行に行けるようになったら考えなきゃいけないのかな、と思っていましたが、今から考えても遅くないですね。
三好さん:そうですね。自分たちの生活が宇宙に繋がっているとはなかなか意識しにくいんですが、いろんな国が宇宙天気の防災に取り組まなくてはならない流れになっています。
オーロラを通じて宇宙プラズマ、宇宙天気を知りたい!
しょーた:オーロラをどうやって観測するのか教えてください。
三好さん:カメラでの撮影は北欧や北米に行きます。ノルウェーやフィンランドの北、アラスカ、カナダなどです。ポイントは氷点下40度に耐えること。もう、とにかく寒いです。私はスキーウェアを着て、もちろん中も着込みますけど、顔を出すと寒いので覆面みたいなものをつけていて、手袋も寒冷地用の手袋です。万が一、素手でカメラに触れたりしたら凍り付いてしまい、離そうとすると皮膚がベリっとはがれることもあります。
しょーた:それは、危ないですね。
三好さん:これから写真を取りに行く方にお伝えしたいことが二つあります。
一つは、予備のバッテリーは大事です。ちょっと人肌で温めておくと多少長持ちする気がしなくもないですが、寒いのでバッテリーがすぐなくなります。
もう一つは、カメラがキンキンに冷えてるので、そのまま部屋に持っていくと結露し、電子部品が壊れます。ビニールみたいなものでカメラを覆って、玄関先みたいな外気温よりはちょっと高いけれど室温より低いところに1時間ぐらい置いておくことをおすすめします。
今のスマートフォンは驚くほど性能が良いので一眼レフのカメラでなくても普通に撮れますよ。
しょーた:今日の本題は、ロケットを打ち上げるプロジェクトでしたね。
三好さん:オーロラを直接的に観測するなら、高さ100キロとか200キロになるので、もう基本的にロケットです。高さ100キロぐらいに向けてロケットを飛ばし、約10分間のフライトで宇宙からやってくる電子などを観測して墜落する、という実験です。2015年から相談し始めて計画を練り、実験延期やコロナ禍を経て2022年にやっと実現しました。
しょーた:8年越しに実現したものの、現地では2週間の期間しかなかったんですね。
三好さん:エンジニアも40人くらいいて、沢山の人がいるのであまり長くはいられないです。オーロラは満月になると見えないので、新月の2週間に限定して待機し、オーロラが光っている情報があったら、ロケットを発射するかどうかをプロジェクトリーダーが決断します。しかし、ボタン押したらすぐ発射できるものではなく、カウントダウンが始まってから、実際に飛ぶまでに15分かかります。その時にオーロラが消えているかもしれないので、判断のタイミングが本当に難しい。
しょーた:”GO”か”NO GO”かを判断するリーダーさんは、心臓バクバクだったんじゃないですか!?
三好さん:実は、前の日は5分前に中止しました。すごい判断だと思います。次の日、完璧に命中して本当によかったです。
三好さん:当日は、すごく大きなオーロラ爆発が起き、私は生まれて初めて真下で見ました。もう空が悲鳴を上げて天が割けるような感じです。
しょーた:そして気になる実験の成果を教えてください。
三好さん:
高さ100キロぐらいでオーロラを光らせている電子は確かにある
同時に、高さ60キロぐらいまでものすごくエネルギーが高い電子が一緒にやって来る
ということを発見しました。この高エネルギーの電子は、オーロラを光らせらないまま地球に近いところまでやってきて、そこにあるオゾンを破壊することがわかりました。宇宙からの影響はいろんな形で及んでいて、地球の気候を変えるような影響が確かにあるということが、今回の大きな成果です。
しょーた:成果も含めて、ドラマになりそうな研究ですね。
三好さん:そうですね。あと、こういった観測機器は、研究者や大学院生が自ら開発し手作りしています。動かないこともあるんですが、今回は全機が正常に動作し、予想したデータを取れたので、それも大変嬉しいことでした。
三好さん、しょーたくん、参加者の皆さま、ありがとうございました。
トップ画像:Justin Hartney
取材:森真由美(株式会社MD.illus---アウトリーチ活動を支援しています)
◯関連リンク
あらせ(ERG)衛星観測データ(三好さん達の観測データが、解析ツールとともに公開されています)
「50のなぜ?」を見てみよう(中高生向け小冊子)