火山ガスを”縦に”測る
「コロンブスの卵的な装置を作りました。」
地球をまるごと研究する角皆潤さん(環境学研究科 教授)が見せてくれたのは、研究グループの新作装置の映像。噴き上がる煙が目を引く映像ですが、新しい装置…どれかわかりますか?
「スタッフが空に向けて持っている長い棒です。火山ガスを測っています。」
グループは、誰もやってこなかったある火山ガス成分の分布の測定から、放出量の測定に成功。新しい火山モニタリングの提案を目指しています。一体何に着目したのか、プロジェクトについて角皆さんに聞きました。
── 火山ガスって、あの映像のような危険な環境で測定しているのですか?
一般に火山ガスは、遠隔で測定されていますよ。分光学的な方法を使うんですが、特殊な望遠鏡やカメラを使えば測れます。火山活動のモニタリングに使われていますね。
── ではなぜ、わざわざ危険な方法を…?
遠隔で測定できるのは、火山ガスに含まれる二酸化硫黄です。二酸化硫黄を指標に火山ガスの放出量を推定するんですね。ところが、二酸化硫黄をあまり出さないタイプの火山もあるんですよ。「水蒸気噴火」する火山で、御嶽山や箱根山がその例です。例えば今、御嶽山が火山ガスを「どのくらい」出しているかは誰にもわからないんです。遠隔から測れないから。
── そうなんですか!? それで、あの釣り竿のような装置で火山ガスをまるっと測ったということでしょうか。
いや、着目したのは硫化水素です。二酸化硫黄をあまり出さないタイプの火山で、代わりに主成分となる火山ガスですね。測定の原理は単純なんです。誰もやらなかっただけで。この測定器を使います。
── 中に同じものが6つありますね。
竿に6本のチューブを這わせて、それぞれにこの測定器をつなぎます。チューブから火山ガスをポンプで取り込んで、硫化水素の濃度を測るんです。このとき、6本の長さを変えて、いろいろな高さからガスを取り込むのがポイントです。
── いろいろな高さから、ですか…?
こんな分布図を描くためです。観測地点の硫化水素の濃度分布です。
これに風速をかけると放出量が出せる。単純な積分の考え方です。
── おぉー!硫化水素以外の成分についてはどうですか?
それは比較的簡単にわかるんですよ。6つある硫化水素の濃度測定器のうちの一つには、二酸化炭素、水蒸気、水素ガスの濃度を同時に測る装置も併設しているので、硫化水素に対するそれぞれの比が求められ、そこから放出量も出せます。
── でも測定に行くのが結構危険ですよね。
ドローンを使おうと考えています。ドローンから違う長さのチューブを吊るせばいいので、竿はいりません。ドローンに測定器を吊るして、噴火口付近まで飛ばして測るテストは、既に成功しているんですよ。
── そういうことでしたか!2021年には、ドローンを使って火山ガスの採取にも成功したそうですね。
ドローンを使わない手はないですね。以前は、無人ヘリでの測定を考えていました。でも借りるための費用は莫大だし、万が一墜落した時の損害も大きい。一方、ドローンは費用面のハードルがだいぶ下がるので、空からの無人測定も、実現できると考えています。
── 角皆さんは、海や川や大気も研究されています。広範囲ですね。
実は、元々の専門は物質中の微量同位体の測定で、少量のサンプルから感度よく測ることに力を入れてきました。その技術が少しでも役に立ちそうなテーマを探っているうちに、対象が広範囲になりました。火山ガスの放出量を測る今回のテーマも、もともとは火山ガス中の微量同位体の存在量をドローンを使って採取した試料から推定する研究がきっかけだったんですよ。でもココだけの話、登山は得意じゃないんだよね笑。これもドローンに力を入れている理由です。
── 地球をまるごと相手にしているのに登山苦手とは、親近感湧いてしまいます。今年も各地での調査や実験を予定されているとのこと、安全第一で、目標の実現、期待しています。お話をありがとうございました。
インタビュー・文:丸山恵
◯関連リンク
論文(2024/5/3 科学雑誌『Journal of Volcanology and Geothermal Research』オンライン版に掲載)
生物地球化学グループ(名古屋大学 環境学研究科)