沖縄のマンゴーを枯らす真犯人を特定
沖縄のマンゴー農園で、マンゴーの木が枯れる事態が起こっている──。一報を受け、森と生き物の関係を研究する森林保護学の専門家梶村恒さん(生命農学研究科 教授)が調査に乗り出しました。
梶村さんが特に気になったのは「木に穴が開いています」という情報。研究室に保管しているサンプルがすぐに思い浮かびました。
機械的に空けたような穴です。悪意を持った「人」のシワザなのでしょうか。ドキドキしながら真犯人特定について梶村さんに聞きました。
── 一体全体、誰がこんな穴を…?
この穴はキクイムシが空けたものです。キクイムシは樹木に穴を空ける虫で、世界中で被害が報告されています。沖縄のマンゴー農園の木は、キクイムシの仲間の「ナンヨウキクイムシ」のお母さんが空けたものでした。木にトンネルを掘って、中で子育てするんです。
── では、このキクイムシがマンゴーの木を枯らしていたのですね。
いえ、実は、真犯人は別にいます。
── キクイムシの背後で悪さをするやつがいるということでしょうか。
そうです。カビです。フザリウム属という土壌などの様々な環境中に生息するカビの一種で「フザリウム・クロシウム」という名前です。
── キクイムシとカビにどのような関係が?
沖縄のマンゴー農園にいたキクイムシは、口の中にこのカビを入れておく袋を持っていました。子育ての巣作りのために木に穴を空けてトンネルを掘っていくんですが、堀り進めながらカビをまいていきます。子ども達はトンネル内で増えたカビをエサにします(木食い虫ではなく、菌食い虫!)。このカビがマンゴーの木を枯らしていたんです。再現実験によって突き止めました。
── なぜマンゴーが標的になってしまったのでしょうか。
まだわからないんですよ。このマンゴー農園はビニールハウス栽培だったのに、どこから入ってきたのか…。でも、虫とカビの共生は、森で枯れていくような木の中では普通に起こっています。それが里におりてきてしまったということですね。
── クマが人里に出現するニュースを思いだします。森で自然の営みとして当たり前に行われていたことが人里で起こってしまったから問題視されているのですね。
はい、しかも果樹園の木を枯らすという、人にとって都合の悪い結果になってしまったからですね。
── 本来、虫とカビの共生は、枯れゆく木で行われることなんですね?
枯れゆく木は、虫が棲みやすいんです。一方、生きている木は自分を守ろうとする防御メカニズムが働くので、虫が棲み着きにくい。今回のマンゴーの木は、確かに生きた木でした。キクイムシはマンゴーの防御機能を突破すべく、数で勝負したんでしょうね。集中攻撃で枯らしてしまいました。
── この事実は、マンゴー農園での対策にどう活かせますか?
食用の果実が生るので殺虫剤を安易に使うことはできません。原因となる虫を特定できたので、まずは虫が木に入る時期やルートを特定して侵入を防ぐこと。もし入ってしまったら、子ども達が成虫になって出ていくのをしっかりと防ぐこと。キクイムシを食べるような天敵を使った退治も考えられるかもしれませんね。
── 今回のように、虫とカビの共生で棲みかとなる植物を枯らしてしまうことはよくあるのですか?
世界中で報告されています。特に、キクイムシとフザリウム属の共生は最近よく知られるようになりました。でも「ナンヨウキクイムシ」と「フザリウム・クロシウム」の組み合わせはこれまで報告がなかったんですよ。学術的にも価値ある発見です。
── 研究の今後は?
キクイムシが農園に現れるルートを特定します。森にいる虫と里にいる虫の遺伝的系統を調べ、農園で繁殖後に拡散しているのか、それともいろいろなところから来たものが混ざっているかも確かめたいですね。
── 人間のメリットだけでなく、森全体の生態系を第一に考える梶村さんの謙虚な姿勢に、前回同様、気づきや反省がありました。虫とカビが共生するように、人間も他の生き物たちと共生させてもらう意識が大事ですね。
インタビュー・文:丸山恵
◯関連リンク
プレスリリース(2023/2/14)「森から里への招かれざる虫とその共生菌~マンゴー生立木への穿孔被害の原因を特定、衰弱・枯死を実証~」
論文(2023/12/7 国際科学雑誌「Scientific Reports」(Springer Nature社)にオンライン掲載)
本研究に関連する過去の成果
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