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金属ナノワイヤ、イオンビームより原理を極めたい
目に見えないほど細いのに、驚異的な強度を持つ不思議な材料が注目されています。金属ナノワイヤです。製造技術が確立しておらず、実用化には至っていませんが、研究が進む中、名古屋大学の研究チームがイオンビームを使って正確に作ることに成功しました。
「でも、イオンビームじゃないとできないってわけではないんですよ。」
そう話すのは、研究メンバーの木村 康裕 さん(工学研究科 助教/現・九州大学 准教授)。イオンビームという響きがカッコよくて、ついついイオンビーム推しなのかと思いきや、そうではなさそうです。
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9月からは、九州大学大学院工学研究院 准教授。引っ越し直前の8月末にお話を伺いました。名大の研究室は、キャンパスを見渡せる研究棟の上階!
研究を通して木村さんが本当に極めたかったこととは!? お話を聞きました。
インタビューのダイジェストをポッドキャストでお届けしています↓
── 金属ナノワイヤとは具体的に?
金属ナノワイヤは、とても細い針のような構造体です。動物のヒゲを意味する「ウィスカ」とも呼ばれています。長さは数百マイクロメートルなので、目で見るのは難しいサイズです。でも、強度がすごく高くて、電気や光に対しても特殊な性質を持っています。
── 小さくて細いと弱そうです…。でも、強いのですか!?
弱そうに感じますよね…。物理的に、髪の毛くらいまでのスケールのものだと、サイズが変わっても強度は変わりません。でも、それより小さいスケールだと、小さいほど強くなるんですね。転位という結晶内の原子の位置がずれる現象が関与しています。
── 原子レベルのお話となると、状況が変わってくるのですね。金属ナノワイヤは注目の材料とのことですが、何に使えるのですか?
いろいろあると思いますが、センシングデバイスは代表的な応用先です。ナノワイヤって、基板から針山のように生えてくるんですよ。だから表面積がとにかく大きくて、分子を多く吸着できるんです。メタレンズと呼ばれる、光を操作するデバイスにも応用可能で、これまでにない光の屈折や集光が可能になると言われています。
── まだ実用化されていない背景に、どんな課題がありますか?
小さいものをつくる技術が確立されていないことが大きな壁だと思います。理論的にはこれまでにない材料特性を出せるはずです!でも、ナノスケールで正確につくる技術が追いついていません。理論が先行している状態です。
── それで木村さんはイオンビームを使おうと‥?
ものをつくる最小構成要素は原子ですよね。金属ナノワイヤも、原子を集めてこないとつくれません。しかも、固体の中で原子を集めないといけない。そこで、集束イオンビームを使いました。集束イオンビームは、小さなスポットにイオンを集めて材料の表面に照射し、精密に加工する技術です。
── 固体って、液体や気体より原子が動きにくそうです。集束イオンビームは、固体の中でも原子を動かせるのですか?
そう、集束イオンビームの大きな力で、固体中の原子を効率的に動かせるんです。ナノワイヤが、タケノコのようにニョキニョキ成長しました。
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図AからHにかけての時間経過を観察。まばらだったナノワイヤがより密集し、長くなっています(出典:名古屋大学研究成果発信サイト)。
── すると今後は、集束イオンビームで金属ナノワイヤをつくる技術を極めていくのでしょうか…?
今回イオンビームを使ったのは、あくまで一つの手段として、手っ取り早く実現しやすかったからなんです。
── え、そうなんですか。どういうことですか?
独自の技術を作るよりも、みんなが再現できる方法を意識しました。イオンビームの装置は、一般的な研究施設なら持っているものです。アクセスしやすい手法を使ったという点で、手っ取り早いという意味です。
── イオンビームにこだわっているわけではないんですね。
特定の技術に依存するのではなく、背後にある物理的な原理を理解したいです。原理を解明できれば、別の手段でも同じ現象を引き起こせると思います。技術そのものより、普遍的な知見を得ることを目指しています。論文でもその点を主張しました。
── Science誌*に掲載されて、注目も高まりますね。
*Science誌とは:分野の専門家が厳正な審査を行うことで知られる学術誌。世界中の研究者に高い評価を受け、多様な分野の最先端の研究成果を発信する場。
実は、別のジャーナルに投稿してリジェクト(掲載拒否)されました。そこで、成果の見せ方を見直して、Science誌に投稿したんです。そうしたら査読(論文原稿の専門的な評価)に回ったんですが、レビュワー(論文の内容を評価する人)の指摘が腑に落ちませんでした。冷静に分析して、論点を整理して回答しました。
── 別のジャーナルにリジェクトされ、Science誌ですか!落ち込まないし、諦めない、強いです。
レビュワーとのやり取りを通じて、議論することがサイエンスだと実感しました。Science誌に載ったからって、研究者としての格が上がるわけではないですし、これからも自分の研究の興味を突き詰めていくだけ、と自分への戒めとして言っておきます(笑)。
── 研究の今後は?
何より「仕組み」をもっと深く理解したいですね。今回、イオンビームを使う方法を使いましたけど、他の方法でも狙った現象が引き出せればOKなんです。もちろん、金属ナノワイヤの大量成長にも取り組むつもりですが、今は未解明の部分をしっかり掘り下げたい。ピュアなサイエンスに向き合って、基本的な原理を探求することが、私にとって大きなモチベーションですね。
── 9月からは九州大学で研究を続けていくとのこと、名大人としては寂しいですが、木村さんの原理へのこだわりが、金属ナノワイヤの発展の大きな力になることを期待しています。お話をありがとうございました!
(インタビュー・文:丸山恵)
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【研究を深堀り!】
名古屋大学研究成果発信サイト(2024/8/9)「金属ナノワイヤの大量成長を実現、その原理を解明! ~原子スケールモノづくりの出発点として期待~」
材料強度・評価学研究グループ(大学院工学研究科)