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星追いのワタリガラス

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‐私には、帰るべき場所などありません。 季節の移ろいと、星たちの気配。 それだけが、私に渡りのときを教えてくれるのです‐ 北の辺境の地で暮らす少女スグリは、あるできごとをきっかけ…
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2015年5月の記事一覧

星追いのワタリガラス6.別れ路の埋め火(上)

星追いのワタリガラス6.別れ路の埋め火(上)

 雪解けの水音が谷間にこだまし、木々の枝先が薄緑にけぶり、鳥たちが春の訪れを今や遅しと囀り始めた頃、唐突にそのときはやって来た。
 冬の間中断されていたスグリの左腕の文身が、とうとう完成したのだ。
「さあ、約束だ。話してやるよ、あんたの父親のことを」
 ミクリはそう言うと、囲炉裏を挟んで真向かいに座るスグリを見据えた。その眼差しは冷ややかで、彼女が自分の祖母であることを、スグリが忘れそうになるほど

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