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星追いのワタリガラス

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‐私には、帰るべき場所などありません。 季節の移ろいと、星たちの気配。 それだけが、私に渡りのときを教えてくれるのです‐ 北の辺境の地で暮らす少女スグリは、あるできごとをきっかけ…
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2015年4月の記事一覧

星追いのワタリガラス1.星ノ森

星追いのワタリガラス1.星ノ森

――季節の移ろいと、星たちの気配。それだけが、私の道しるべ――
辺境の地に暮らす少女スグリ。ある出来事で南の戦乱の地へ旅立った少女は、異郷の地で苦しみながら、それでも前を向き進んでいく。

戦国時代の日本をイメージした世界のファンタジー長編の1話目です.
よろしければ,お付き合いよろしくお願いします.
表紙画像 ©柴桜様 『いろがらあそび1/2』作品No.3
https://www.pixiv.n

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星追いのワタリガラス2.はじめての遠出

星追いのワタリガラス2.はじめての遠出

1 翌朝、東の山の端に光が差し始める少し前に、マシケ、ウリュウ、そしてスグリの三人はそれぞれに荷を背負い、家を後にした。そして里の南口で待ちかまえていたカタヌシから洗礼を受けた後、南山へと向かった。
 里から南山への道は、ミクリの庵へと向かう湿原の道ただ一本だけだった。立ち込める霧の中を、スグリたちはマシケを先頭に、黙々と進んで行った。
 ここ数日のうちでも、とりわけ冷えこんだ日だった。
 湿原は

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星追いのワタリガラス3.時じくのかぐの木の実

星追いのワタリガラス3.時じくのかぐの木の実

1 三日間寝込んだが熱は下がらず、とうとう四日目に、スグリはミクリの元へと運ばれた。
 布団でぐるぐる巻きにされたスグリはマシケに背負われて、湿原の道を揺られて行った。朦朧とした意識の中で、視界のはしに粉雪がちらついていたのを覚えている。
 空の色は、どんよりとして暗い灰色だ。辺り一面青白い光に包まれて、なんだかとてももの寂しい、悲しくなるほどの清浄さに充ちていた。
 数日前には鮮やかな赤色に染ま

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星追いのワタリガラス4.咲かずの花(上)

星追いのワタリガラス4.咲かずの花(上)

 その年、降り積もる雪が湿原の道を覆い隠してしまう前に、カガリの文身は出来上がった。
 その報せが里に伝わるのを待ちかねていたように、ある家から早速、カガリを花嫁にと所望する旨の申し入れがあった。その相手は、スグリたちの住む家から見て丁度里の反対側にある家に住む、ムビヤンという青年だった。
 早々のこの申し入れにマシケとナナエとは面食らった。しかし、当のカガリは至って落ち着いた様子で、その日のうち

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星追いのワタリガラス5.咲かずの花(下)

星追いのワタリガラス5.咲かずの花(下)

 寒さが厳しくなり、川の面はすっかり氷に埋め尽くされた。それから月がひとめぐりの満ち欠けを終えると、一日一日と、日を追うごとに少しずつ、陽差しにぬくもりが戻ってくる。
 そのうちに降り積もった柔らかい雪が、昼の間に融け、夜に再び凍りつく、ということを繰り返し、地表はやがて、かた雪の滑らかな薄板に覆われ始める。
 それは星ノ森の人々にとって春が近づいてきたしるしであり、そして同時に、とりわけ男たちに

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