『セールスマンの死』観劇
すごいもの、ちからのあるもの、籠められた、たましいみたいなもの、そういうのは、そのものが持っていた文脈から引き剥がして出してみせたところで、不動の、圧巻の、嵐の中に人々をまきこむのだ。
流れてきた涙はつー、つー、と雨の翌日、車の天板から時折落ちてくる雫のように、止まりそうで、止まることはなく、そして何故だか、わたしの右目だけから、つー、つーと。
セールスマンの死。
ベルベットのスリッパ、電話一本。
一万ドルだぜ、一万ドルだ!
あいつは大物になる、大器晩成なんだ
ストッキングを縫って使うのはやめろよ。
タッチダウンだ!
数学を落としやがって
俺のせいなのか、俺のせいなのか?
俺を見下すなよ!
俺の葬式には大勢の人がくるぞ、ニューイングランド中から!
ダイヤモンドだ!手にごつごつと、抱えるんだ
伝わらない、何度伝えたって、どんなに必死に伝えたって、伝わらない。なんでって、違う世界にいるんだから。違うものが見えているんだから。頭の中で広がった世界は素晴らしくて、日射しが差して、無邪気で、前途があって。そうして、四面楚歌の、狭まっていく、足の出た、世界に、重ねていく。包まれていく、わずかに残っていた現実は遠ざかっていく時間を長く、長く。
インストールされた、メモリに深く深く焼きついたそれは、もう書き換え不能なの。
それでも諦めてはダメなの?
諦めは不親切ですか?ほんとは害があるけどおいしい餌を与える事は間違っていますか?家族ならば手と手を繋いでいなければならないのですか?要求と対応はバランスが必要なの、受け入れられないほどの要求…愛情は溢れてその子を窒息させてしまうの。
**【作】アーサー・ミラー **
【翻訳】徐 賀世子
【演出】長塚圭史
【出演】風間杜夫 片平なぎさ 山内圭哉 菅原永二 伊達暁 加藤啓 ちすん 加治将樹 菊池明明 川添野愛 青谷優衣 大谷亮介 村田雄浩