カタン - 大会におけるルール研究 その1
はじめに
全世界で3,000万個も売れている超有名ボードゲーム、カタン。
大会でプレイする場合は当然にアナログ版を使用するので、プログラムによってできる/できない行動が規定されているCatan Universeなどとは異なり、意識的/無意識的かはさておき、結果としてルール違反かのように見える行為が発生し、その行為がルール違反なのか否かについてプレイヤー間で衝突が起こります。そこでジャッジを呼んで解決を図るも、そもそもルールブックに曖昧な記述があるだけであったり、さらにひどい場合には何らの記述もない場合があり、同じ事象にもかかわらずジャッジによる裁定が一意にならないことが有り得ます。
そこで筆者が実際に遭遇したルールの曖昧な点などを、海外ルールなどと照らし合わせ、あるべきと思われるルールを纏めてみました。
ただし、ここで纏めたルールはあくまで個人的な研究結果であり、大会などの審判による裁定とは異なる場合がありますのでご注意下さい。また異論や疑問点などがあればtwitterにリプライをいただければ、と思います。
論点
1. 未来交渉
少し詳しい人とプレイすると耳にするようになる「未来交渉」というルールですが、取扱説明書や原典ともいえる外国のルールでは未来交渉の禁止は明文化されておらず、日本の大会限定で規定されているローカルルールのようです。
なお、いわゆる将来の約束の禁止と共に、現有資源以外および行為を取引材料とすることの禁止も併記されており、これら全てを併せて未来交渉と言われることがありますが(広義の未来交渉)、海外のルールでも将来の約束の禁止以外については明記されているため、以降は将来の約束の禁止のみを指して、未来交渉と呼びます(狭義の未来交渉)。
それでは「いつ」そして「何故」、国内において未来交渉がローカルルールとして規定されたのでしょうか。
それを知るため、カタンの現在の国内販売元である株式会社ジーピーが主催する公式大会に初年度から参加しており、ルールの変遷に詳しいカタンプレイヤーからヒアリングをして以下に纏めてみました。
たしかに検索エンジンやtwitterで調べてみると、その頃にそのようなマナ悪およびルール違反行為をする団体に対する非難が散見され、経緯としては概ね正しいように思えます。
これらを鑑みるに、海外ではそもそもそのような行為が想定されていない、もしくは慣習的に実践する人物がいないために明文化されていないものの、日本においてはルールの穴を突くような行為をする集団が現れたためにその対応に迫られ、結果として明文化された、というのが経緯のようです。
ここで、大会ルール策定の監修をしたとされる「日本カタン協会」のtwitter(旧)アカウントにて、未来交渉に言及していたツイートがあったので見てみます。
未来交渉が国際的に非紳士的行為であるというのは上述した内容と相違ありません。
一方で、このツイートではその定義をターン跨ぎの行為の予約としており、現行の大会ルールが「将来」または「未来」という文言のみを使用してターン内でさえも未来交渉として解釈しうる点で相違があります。
さらに言えば、現在の海外FAQでは自ターンのプレイヤー以外でも将来の取引のオファーができると規定されているように読み取れ、上記で前提としている慣習と矛盾しているようにも思えます。
但し、上記はあくまで「できる」ことを規定したものであり、"can"と"do"の間には差があるのではないか、と考えます。上記文章と並列で「適切だと判断すれば脅迫もできる」との記載もあり、すなわち「できる(can)けど、実現可能性(do)が乏しい」ことを表している、というのが私見です。
欧米文化論等についてド素人の私見でしかありませんが、性悪説が根付いている欧米では不履行になる可能性が高い将来の約束は受諾されないのでそもそも提案もしない、故に明文化されていても実現しない、他方で性善説である我々日本人は未来交渉を提案されるとほぼほぼ履行されると安易に信じてしまうため、ルールに規定しないとゲームバランスが壊れてしまう、故に禁止の明文化の必要がある、などと考えてみました。いずれにしろ欧米人と我々日本人では言語だけではなく文化や思想を異にしているため、前提となる常識が異なることも多く、英語の字面だけから安易な解釈をするのは避けた方が無難かもしれません。
以上を踏まえると、ターン跨ぎに限定する等の改良余地はあるとは思いますが、いずれにしろそのようなルールの穴を突くような団体が実際にいた以上、国内においては今後も未来交渉の規定は必要であると結論付けます。
2. 資源の贈与
カタンでは国内/海外を問わず、資源の贈与は禁止されています。
また結果として資源の贈与となり得るため、同一資源同士のトレードも許されていないことが海外ルールには明記されています。
ここで上記のルールの字面だけを読み取り、「複数回のトレードをそれぞれで判定すれば贈与にはならず、ルールに抵触はしていないので、複数回のトレードの結果として贈与となっていたとしても問題ない」と主張することは可能でしょうか。
例として、手番プレイヤーAとプレイヤーBのトレードを示してみます。
①トレード
A : 木 ⇔ B : 羊+麦3
②3 : 1交換
Aが3 : 1港で麦3枚を鉄1枚に交換する
③トレード
A : 鉄 ⇔ B : 木
∴①+②+③
A : 羊+1
B : 羊 -1, 麦 -3, 鉄+1
たしかに①, ②, ③をそれぞれ見れば、資源の贈与とはなっておらず、ルール上は問題がないようにも見えます。
しかし、トレードを一体として見たときにルールの企図である「資源の贈与の禁止」から外れるのであれば、そのようなルールは意味を成していないことになります。つまりルールの実効性や有効性という観点からは一連のトレードを一体として考え、贈与か否かの判定がなされるべきである、と考えられます。
私見では、上記例における②までをプレイヤーAのターンで行い、③をBのターンで行うことも、ルールの企図から鑑みれば違反になると考えます。しかし、どの程度のターンを跨ぐまでが贈与になるのかといった判断は難しく、ターンを跨げばプレイヤーが持つ資源の状況も変わり、またそもそも過去のトレードを全て覚えていることは難しい等の要因から、現実的にはターン跨ぎの贈与判定はジャッジが著しく困難であると思われます。故に、贈与判定を最大限拡大して適用するとしても、上記に挙げた直後のターンまでが限度だと考えます。
以上を踏まえ、「トレード単体で見ればルール違反とはならない」と主張できうる余地をなくすために、現行のルール文の後に「複数のトレードの結果として贈与となる場合も同様に禁止です。」といった文章を追加されることを望みます。
2.追記
カタン世界選手権2022のトーナメントルールにおいて、「一連のトレードの結果として無償での資源授受となることも禁止(3.0.11)」であることが明文化されました。やったね。
つづく
一記事あたりの文章が長くなり過ぎるため、その2へと続きます。