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「好き」を忘れてしまう前に

お香を買った。


インスタグラムで見ている憧れの人が
ルーティンとして
掃除のあとにお香を焚いていると言っていたので
真似して買ってみた。


その人がお香を焚いていると知ったのは
もう2年前くらいだったのだけど
その時は次男もまだ小さかったから


間違えて口に入れたら大変だから、
折られたら悲しいから、
と理由をつけて
買わない選択をしていた。


でも、いつも頭の中に
「お香」の文字がぐるぐると回っていた。


どうしてそんなに気になるのかはわからない。
でも、なんか気になるのだ。


お香なんて、お線香みたいなものじゃん。
お香を買うなら、他のもの買ったほうが
役にたつんじゃない?


いろんな理由を見つけては
買わない理由を並べて
買えない自分を正当化しようとしていた。


そんな姿に
きっと神様もあきれたのだろう。


神様が
私の目の付くところに
お香を用意してくれた。


来客があるから
グラスを新調しようと
でかけたお店のレジの横に
お香が並んでいた。


あ、お香だ。
思わず声にでた。


それを聞いた長男が
「お香?ママ欲しかったの?」
と聞きながら
細い棒を鼻に近づけていた。


「ママ!柚子の香り、すごくいいよ!」
「ぼくはこれが好きだな~」
と楽しそうに選ぶ長男。


あ、確かに良い香り。
ママはこっちのほうが好きかな。


子育てに夢中になって忘れていた
“自分の好きなもの”


どんな香りが好きで
どんな味が好きで、


子どもが産まれてからは
自分にベクトルを向けるよりも
子どもが好きなのはどっちだろうか
と考えていた。


子どもが機嫌よく過ごしてくれるなら
子どもの好きなものを選ぶわ、と
ずっと思っていたから
自分の好きなものを忘れていた、
ということに気づいた。


お香が気になっていたのは
自分にベクトルを向けなさい!という
神様からのメッセージだったのかもしれない。


そう思ったので
お香をひとつ買って帰ることにした。


好きなものセンサーが鈍っている私は
結局「自分が好きな香り」は選べなくて
長男が「好き」と言った
柚子の香りが入ったアソートパックを買った。


このお香を焚いてみたら
自分の“好き”を思い出すかもしれない。
袋に入ったお香を眺めながら
ちょっとだけ浮かれた気分になった。


子どもたちが「いってきます」と言ったあと
しずかになったリビングテーブルで
ひとつお香を焚いてみる。


ゆらゆらと煙が舞っている。
うん、やっぱりお線香みたいな香り。


実家を思い出す香りの奥に
かすかに香るゆずの香り。


ゆらゆらと舞う煙は
途中でくるくると渦を巻き
ヨックモックのシガールみたいな形を作っていた。


久しぶりに
ヨックモックのシガール食べたいな。
私、あれ好きだったな。


シガールみたいな煙は
最後にふわっと形を変えて
天井に向かって消えていった。


今度、ヨックモックのシガールを買いに行こう。
たまには「自分の好きなもの」を買おう。


そうだった。
私は「子どもたちのママ」だけど
「わたし」でもあるんだから


たまには自分の喜ぶものを
買いにいこう。
私の「好き」を思い出そう。
「好き」を忘れてしまう前に。


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