生の微糖

生の微糖

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うつくしきもの

うつくしきとはなんだろう ぼんやりと日を浴びた緑の葉っぱ ぶぶんと忙しげな働き蜂 さらさらと涼しげに流れる川 遠くに揺れる電車の音 楽しげに騒ぐ鳥の鳴き声 ぼんやりとそれを眺めるボク 穏やかな心はどうだろう 何か忘れたような、どうでもいいような それより蚊に刺されたから痒いだとか うつくしきとはなんだろう ボクの心の奥深く 常に何かに怯えるようで 朗らかなうつくしきたちが とてもとてもうらやましい ボクは彼らになれるだろうか ボクはうつくしからんだろうか スズメはそっぽで

    • キャベツの味

      陽の光、にゃおんと呼びかける君に キャベツの味を教えてみたい フライパンで軽く炒めたキャベツ 甘くさくさくとしたキャベツ 君はどんな顔をするだろう 恨めしくボクを睨むだろうか 涼しげにそれを吐き出すだろうか 訝しげにボクを見つめる君に キャベツの味を教えてみたい

      • 帰り道

        オレンジの瑪瑙に混ざる白絵の具の雲。しとしとと流れる川の堤防沿い。微かに揺れる影法師。わたしとあいつの帰り道。空気はいつもより暖かく軽やかだった。 「へぇー、もう春かなぁ」 虚空に放たれる脳天気なあいつの声。あっけらかんとしたその発音はわたしの耳から入り頭を抜けていくようだ。 「ねぇ、暖かいね」 無視した私にあいつは改めて向き直って話しかけた。 「そうね。でも最高気温十一度だって」 「まじで!」 「まじで」 「西日があるからかなぁ!暖かく感じる」 「そんなの着てるからよ」 「

        • こぼれおちる

          ※過度にグロテスクな描写があります。 ————————————————————— 「———あぁ……っああ!ああ!ああぅう……ふんぐぁくぁぐぎ、ぐぎぎッ」 焼ける。焦げる。首筋が弾け、尖った背骨が麗しく表出する。熱い、熱い、熱い 「んぎぃッ!」 何か、心臓の奥か、脊椎の芯か、どこからか、激しく鼓動し、焼ける。焼ける。疼き、疼き、焼ける。焼ける。真っ白に透き通ったこの空間の中で。焼ける。焼ける。焦げる。飛び散る。 そんな、そんな僕を見ている1人の女性がいる。彼女は、こ

        うつくしきもの

          閑話休題

          「平成、終わるなぁ」 「終わるね」 「………………」 「………………」 「嵐も解散しちまうしなぁ」 「解散じゃなくて長期休業」 「休業ぅ?」 「そうよ、きゅうぎょう。お休み」 「おやすみかぁ」 「おやすみよ」 「………………」 「………………」 「……もう冬だなぁ」 「とっくに冬よ」 「春は?」 「まだ先」 「そっかぁ」 「………………」 「………………」 「なぁ」 「何?」 「さっきから何読んでるんだ?」 「ゲーテの詩集」 「面白いか?」 「甘い言葉ばかりで吐きそう」 「吐

          埋まってゐる

          「あたし、サクラって嫌いなの」 「そりゃどうして?」 「死体が埋まってるから」 放課後。夕暮れの教室。というか空き教室。俺たち部活動の活動部屋。兼物置。俺達は乱雑に置かれた椅子たちを引っ張り出して思い思いに座っていた。 「なんで死体なんだ」 「サクラの樹の下には死体が埋まっているから」 「いや、だからさ、その……なんで死体って言うか……なんで死体が埋まっているって思うのさ」 「サクラの樹の下には死体が埋まっているのよ」 彼女は頑なだ。いつもの事だが、俺は慣れた手つきでスマホで

          埋まってゐる

          慰め

          暗闇。と言っても真っ暗闇ではなかった。微かに光があった。しかし月明かりなどではない。思うにどこかの街灯か、電光掲示板か、ビルの明かりだろう。窓らしきもの。カーテンを通して鈍い光が差す。 すると突如、ピピりと何かが瞬いた。暖色の蛍光灯がついたのだ。そしてぼんやりと照らされて見るに、どうやらここはホテルの一室のようだ。コートかけ、机、テーブルライト、そして大きな白いベッドがある。 蛍光灯がつくやいなや、入口の扉らしきものが開き、男女が入ってきた。背の高いダウンジャケットの男と外套