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今日も僕らは逃げ続ける。
ドボンッ
ドボンッドボンッ
という音と同時に水が揺れる。今日もまた悪魔がやってきた。
そう、人間だ。
いつも一定時間になると、人間はここへやってきて僕たちを追いかけ回し、手で捕まえようとしてくる。
僕たちは、捕まらないように必死に逃げる。
でも、中には捕まってしまう仲間もいる。捕まった仲間はバケツへ入れられ、運よく戻ってくる仲間もいれば、二度と戻って来ない仲間もいる。
人間世界では、これを「魚のつかみ取り」と言って娯楽としてやっているらしい。こんなの娯楽としてやるなんてたまったもんじゃない!!僕たちは、捕まらないように命がけで逃げているっていうのに!どれだけ仲間を傷つければ気が済むんだ!!
そんなことを思っても、生まれ育った海に戻れることはない。一生をここで過ごしていかなければならない、ということは薄々気づいている。
そんなことを考えていたら、ドボンッ、ドボンッとどんどん人間が入ってきた。ああ、また始まる。
外からの合図と同時に人間は僕らに向かって、ものすごい勢いで向かってくる。
僕らは、人間の手や足の間をすり抜ける。
始まってすぐは、正直逃げるのは簡単だ。最初の段階で僕らを捕まえられる人間はほとんどいない。水の中で泳ぐ僕らからすれば、人間の動きなんて止まって見える。
ただ恐ろしいのは、人間は学習をする生き物だということにある。
最初は、それぞれが魚を捕まえようとしてくるだけだが、ある程度時間が経過すると、それじゃ僕らを捕まえられない、ということに気づき始める。
すると人間同士で協力して捕まえようとしてくるのだ。
人間たちは横一列に並んで僕らを端まで追い込んでくる。ある程度追い込んだと思ったら、勢いよく僕らを捕まえにやってくるんだ。こうなってくると厄介だ。
僕らは人間が向かってくると同時に、一気に逃げる。そこで、逃げ遅れて捕まってしまう仲間も出てくる。
一定の時間が経過すると、人間たちは出て行く。
悪魔の時間は終わったようだ。ふう、今回も捕まえられずに済んだ。
ふと思う。僕らは、いつまで人間から逃げ続けなけらばならないのだろうか。逃げ続けた先には何があるのだろうか。
わからない。
人間がやってこない日もある。そういう日は、仲間と楽しく泳いでる。食べ物に困ることだってない。地元の海よりも少し水は汚いけど、そんなに大差はない。地元の方が、そりゃ広々していてよかったけどさ。
地元で過ごしていたとしても、空からやってくる鳥に捕まる仲間だっていたし、僕らよりも大きな魚に食べられた仲間だっていた。結局、どこにいたとしても僕らは逃げ続けなければならないんだ。
ここにやってきて捕まらずにいるけど、すぐに捕まってしまう仲間もいれば、長年ここで過ごしている大御所さんもいる。僕だって、明日捕まるかもしれないし、それはわからない。
ここに来たばかりの頃は、地元に戻りたいって思ったけど、今はもう思わない。だって、どこにいたって僕らを狙う存在は常にいて、そいつらから逃げないといけないのは変わらないから。
それなら、今いる場所でうまくやっていくしかないんじゃなかって。最近は、そんな風に思ってる。
ちょっと人間のことも考えてみた。僕らにとって人間は悪魔でしかない。でも、人間も僕らと同じように、逃げ回らなければいけないようなものがあるのかな。人間が恐れている存在ってどんなものなんだろう。
考えたところで人間社会のことは僕にはわからないけどね。
ドボンッ、ドボンッ。
おっと、もう人間たちがやってきたみたいだ。
🐟🐡🐟🐡
先日、魚のつかみ取りを初めてやった。
その時の魚の気持ちを勝手に想像して書いてみました😁
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