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猫が来て、2回目の事件。
これは少し前のお話。
ショックが大きくてしばらく文章にできなかった。気持ちが整理されてないと言葉にできないものなんですね。あまり落ち込みたくないので済んだこととして葬りたかったけど、後で参考にできるよう書き残しておく。昨年末、首輪に挑戦していわゆる「猿ぐつわ」にさせてしまった。結果的に大事にならずに済んで良かったのだけれど、とにかくその渦中では猫に大変怖い思いをさせてしまったし、人間も大変怖い思いをした。
元々猫を着飾らせたり装飾品をつけたいタイプではなかったのだけれど、災害時に連れて避難することを考えると迷子防止に首輪とリード、できれば猫用ハーネスなんかがつけられたら安心だなと考えていた。病院に連れていく時、裸の猫が入ったキャリーケースを持って歩く片道5分の道中さえ、キャリーケースがガタついていて扉が開いちゃったらどうしよう、通行人や自転車にぶつかられて扉が開いて猫が飛び出してしまったらどうしようと気が気でなかったので、外出時にはリードを持っていたかったのもある。とにかく心配性なのだ、私は。ところがうちの猫は抱っこ大嫌い、身体をホールドされることも大嫌い、洗濯袋にも入った試しがなく、被り物やお洋服なんて絶対嫌がりそうだなと察しはついていて、ハーネスは無理でも首輪だけは試しておこうとタイミングを図っていた。最近、パートナーが抱っこしたり膝に乗っけたりするのが上手になってきて、病院に連れていく時も追いかけっこしないでキャリーケースに入れられるようになってきたので、そろそろ行けそうかも?と思った。ウェブサイトで安全性を謳った国産メーカーを探し、パートナーと真剣に選んだ。猫あるある「猿ぐつわ」の恐ろしさは様々なウェブサイトで読み漁ったし、首吊り事故のケースも読んだ。サイズ感が重要らしいからいざという時外れやすい物を、とも考えた。シュシュは頭から被せるのを嫌がりそうだからベルト型で。色は白黒によく似合う赤系を。ようやく届いて包装を解けば、小さくて赤い愛らしさに心が躍った。土曜日の夜だった。
可愛い。今すぐ着けてみたい。土曜の深夜、試しにつけてみた。もっと暴れるかと思ったが、以外にもあっさり装着できた。嬉しい!首輪の説明書には「指1本程度のゆとりを」との説明。ちょっと緩いかな、いや、でもちょうど私の指一本くらいだな。大丈夫そうかな。猫は多少むずかったもののすぐ諦めたようで、その後は普段通りに過ごしているように見えた。可愛い可愛いと写真も撮ってテンションが上がり、一通りはしゃいで疲れてうとうとしていたその時、パートナーの聞いたことのないような狼狽した声に起こされた。「猫が、猫が、ああーどうしよう、どうなってるのこれ!!??」人間が少し寝ている間に猫は首輪をずらして猿ぐつわ状態になり、その状況にパニックになって暴れていた。
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走り回って捕まえられない。やっと捕まえても暴れて逃げていく。ビチビチと跳ね回る魚のようにのたうち回っている。鳴き声も大きく苦しそうで狂ったような叫び声。走り回る側には少量だけれど血が。歯が折れた?!爪が折れた?!足の骨折とかは??どこか怪我している??暴れすぎて確認できない。抱き抱えに行けば走り回って逃げ、ビチビチとのたうち回る。そのうちに猫の舌がだらんと出たまま呼吸が荒くなってきて、完全に人間もパニック。
夜間救急対応してくれる動物病院を探して電話で必死に状況を伝えるも「連れてきていただけないことには処置ができない」との回答。こちらは救急車のサービスがあるものとばかり思い込んで一生懸命話していたけれど、そうではなかったのだ。急に恥ずかしくなって電話を切りかけたけれど、先方は親切で「とにかく落ち着けて輪っかを外すところまで頑張ってください。怪我があるかないかは連れてきてくれれば診察しますので」と。電話を切ってまた猫の捕獲にかかる。一回ホールドできたもののうまく首輪が取れない。口の中に留め具の部分が入ってしまっていたのだ。かくなるうえは首輪ごとちょんぎってしまおうかと大きなハサミを持ち出すも、猫は猫タワー下段の奥に入ったままくんずほぐれつ一人でバタついて、ぜいはあと荒い呼吸で目を爛々とさせたている。入り口の狭い小さな空間に入り込まれて手が出せない。気づけば私もパートナーも腕や手から出血。猫タワーの中にも血痕が見えるものの、猫のどこから出血しているのかわからない。猫の血なのか、人間の血なのかさえも曖昧だ。再び先ほどの救急動物病院に電話。「先ほど電話したものですが、、、命にかかわるかもしれない状況というのはどこで判断すればいいですか?」「出血が多い場合、出血多量は危険です。あとは舌をだらりと出して呼吸が荒くグッタリとしてきたら危ないです。そうなったら急いで連れてきてください。」舌出してゼーハーしてるじゃないか!もしや死んじゃうこともあり得るの?!ますますパニックになって頭は真っ白。なんとか落ち着けようと猫に声かけしていたところ、ぽろっと首輪が取れた。運よく偶然、首輪の留め具が外れる程度の強い力がかかったのだろう。外れやすい規格のものを選んでおいて良かったけれど、同時に、これだけ暴れてるんだからもっと早く取れても良さそうなのに、とも思った。
怯えたまま縮こまる猫にひたすら声かけしながら、落ち着いて猫タワーから出てくるのを待つ。毛を逆立て目をぎょろぎょろさせて警戒しながら出てきた猫を観察するが、大きな傷口は見当たらない。爪がごっそり折れてるとか、歯が折れてるような様子もない。首輪が擦れていたらしい口の端が少し赤くなっている。擦り傷がありそうだが、パックリ切れてはいないみたいだ。前足に少し血の跡が見える。自分で引っ掻いて血が出たのだろうか。心配で心配で、今すぐとっ捕まえて病院に連れて行きたい気持ちもあったが、もう少し観察することに。大きな怪我はないように見える。だんだん猫も呼吸が落ち着いてきているように見える。捕まえてキャリーケースに押し込んで病院に連れていく方がストレスなのではないか。また怯えさせるのも可哀想だ。様子を見よう。この時すでに深夜2時近く。気持ちが落ち着くのと比例して、疲労と睡魔が襲ってきた。
翌日の日曜は幸い特に大きな予定もない。とにかく猫と一緒に過ごすことに。おかしな様子があったらすぐ病院に連れて行こう。見逃した怪我がないか観察だ。なんでもっとちゃんとサイズを調整しなかったのか。完全に私のミスで猫にこんな大変な思いをさせてしまった。かすり傷とはいえ口の端の傷からばい菌が入りはしないかと心配だ。昨日大騒ぎしたからキャットタワーに嫌な思い出ができちゃったかな。もうこの中で寝てくれないかもな。昨晩怖い思いしてる時に追いかけ回したから、私たちのことも怖くなっちゃったかな。もう、首輪つけてくれないかもな。猫への心配に加えて、後悔とショックと自分を責める気持ちがずーっとぐるぐると頭の中を回って少しも安らげなかった。運が悪ければ命にかかわることになっていたかもと思うとゾッとしてこの世の終わりみたいな気持ちだったけれど、その後、数日、数週間と時間が経つにつれ、猫は普段通りになって口の端っこの瘡蓋も消え、人間たちの気持ちも落ち着いて日常が戻ってきたのだった。
ショックですぐには文章にできなかったけれど、心に刻んだ教訓もある。新しいもの、特に猫の身につけるものはたっぷり一緒にいられるタイミングで試すこと。深夜に首輪をつけてすぐ寝ちゃったのはダメだった。せめて半日、できれば丸1日は様子を観察すべきだった。何かあったら病院に連れて行ける昼間の時間帯に試すべきだった。そして、安全性に妥協はしないこと。納得するまで確認すること。多分大丈夫では何かあった時に自分が辛い。ちょっとゆるそうだけど大丈夫かな、写真撮りたいな、が良くなかった。一回で上手く装着できたのが勿体無くて付け直さなかったけど、ゆるそうなら外して調整すべきだった。
迷子や災害避難時のため、できれば首輪やハーネスに慣らした方がいいという考えは今も変わらない。でもしばらく首輪は封印。次は冬毛がもこもこな時期ではなく、夏毛でスリムな時に落ち着いてまたチャレンジしてみよう。病院の先生につけてもらってもいいかもしれない。着せるのが大変だと思ったけど、慣れればハーネスの方が猿ぐつわのリスクがないだけ安全なのかもしれない。猫の安全を守れるのは我々飼い主だけ。失敗しても、反省しながら、ちょっとずつ強く賢くなっていこう。
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