ひとつだけの「個性」
コレクタという存在を知ったのは、多肉を育て始めて1年半経った頃だったと思う。
ある日、農協の植物コーナーの片隅にひっそりと佇んでいる多肉と目が合った。青々と厚みのある葉が、鉢から溢れんばかりにに生い茂っているのに、たった200円という安さで売られていたのだ。たった200円!?なんてお買い得なんだ!
これはもう「買い」でしょう、と心躍らせて帰ったのだ。
家に帰り、早速パソコンで「コレクタ 多肉」と検索してみた。鉢に「コレクタ」と書かれたタグがあったのだ。
コレクタは、どうもハオルチア属らしい。
ハオルチア属には、軟葉系と硬葉系があり、どうやらコレクタは軟葉系のようだった。軟葉系は、ぷっくりした葉には透明の「窓」というものがあるらしい。
ほぉ〜!そんな植物もあるのだな。
更にハオルチア属の「窓」を画像で見たとき、私の中で衝撃が走った。パソコンの中にある軟葉系のハオルチア属の「窓」は、まるで宝石のように煌めき、植物とは思えない美しさを放っていたのだ。
鉱石やステンドグラスなどキラキラした物に、殊のほか弱い私だ。普段からキラキラしたものを見つけたら、カラス並みに引き寄せられるという習性がある。大好きな多肉植物でキラキラまで堪能することができるなんて、素晴らしすぎるではないか。
だが残念なことに、私が買ったコレクタの窓は、とても透明とはいえる状態ではなかった。どうひいき目に見ても半透明といったところだ。パソコンの中のコレクタより、葉が何となく貧弱なのだ。このあたりが200円クオリティーといったところなのだろうか。
いや、コイツが本来のコレクタの姿から程遠いのは、今までいたコイツがいた環境がよろしくなかっただけなのかもしれない。ネットでも「良い環境下で上手く育てることが出来れば、窓が透明になります。」と書いてあるのではないか。コイツをベストな環境で育てたら、窓が透明になるはずと私は考えた。これは気合を入れて育てる価値があるではないか!
我が家のベランダが最高の環境とは言えないのにも関わらず、大切にすればコレクタの窓が透明に育つだろうという、根拠のない自信が私の中で芽生えた。そして己の手で「窓」を作ることを決意した私は、コレクタへの期待が一気に高まり、興奮してしまった。
早速、少しでもよい環境にしようと、植替えをし始める。
土をほぐすと…太い根っこが出てきた。
多肉の根のほとんどは、もしゃもしゃの細毛だったので、この剛毛さぶりには驚いた。この根の逞しさを見て私は、これはイケるかもしれない、と更に期待感が増した。そして丁寧にほぐすと、コレクタは二つの株で成り立っていた。200円で、このお得感は一体何なんだろう。
これこそ、「一兎追う者は二兎を得る」だな、と自分都合でアレンジした諺に酔いしれながら、植替えは終了した。
ハオルチア属は強い日差しが苦手らしいので、ベランダではなく明るい窓辺に置いた。カーテン越しの優しい光が、コレクタに透明な窓を作らせるだろう。太い根が水をたっぷり吸いあげ、この窓辺ですくすく成長するだろう。
そんな期待から、1年半経った今、コレクタは、私の期待通りすくすくと成長した。更に一層、モサモサと生い茂り、元気いっぱいである。元気なのだが、残念ながら窓は半透明のままだ。頑張って陽にかざしてみても、お世辞にもキレイとは言えない。
後からやってきた後輩たち(ハオルチア属)は、頑張らなくてもキレイな輝きを見せてくれている。他のハオルチア属とコレクタの環境は同じなので、環境は悪くないはずなのだ。
これはもう、コイツの「個性」なんだと受け止めるしかないと思うようになってきた。相変わらず輝きがないコレクタだが、私はコイツが好きだった。
ダメな子ほど可愛いというでないか。
コイツは葉を半透明にしたまま、どんどん成長し増やしていくだろう。もう輝きは他のハオルチアに任せればいいのだ。
そして季節がきたら私は、コレクタを株分けし、無駄に増えていくコレクタを母のように見守っていくのだけなのだ。