最期通告/最終追憶
エレベータードアが開く。
田んぼで稲穂が揺れている。
胸に郷愁やめろ込み上げダメだ。
そう、ここはふるさと。
「うわぁ懐か」
「秒で呑まれんじゃねぇ!」
側頭部を殴打され視界が歪む。金属音の残響が響き、バズーカみたいな筒を振り上げたオッサンの髭顔ちがう黒光りする円筒ヘルメットが眼前にあった。
スモークミラーじみた偏光性質を備えた防護装備。俺の頭もそれで覆われている。
「いけるか? つっても出口消えてんなぁ」
「いけ……ます。オッサンより体力あるんで」
おう、と含み笑いを残して、オッサンが集団に戻って行く。地面に広げた装備を検める先輩社員たちも、判を押したような黒服に円筒頭だ。
やがて準備が整った。背嚢と管で繋がった、引き金のある筒を手にする。
横一列、黄金色の丘陵と対峙する。
「放射ぁー」
間延びした合図に併せトリガー。タール状の液体が筒から吹き出し稲穂にどろりと絡み付き、白煙を燻らせる。
「着火ぁー」
有毒の野火は極彩色で、つんざく虫の音は断末魔のそれだ。
野を汚し、聖域を土地に堕とす。
神域の地上げは粛々と行われていく。
「おおい」
不意に、呼ばれた気がした。
居るはずの人が居ない違和感に。
「オッサン?」
つい、応えてしまった。
実家の香りがする平屋の縁側に腰掛けていた。
「おおい」
背後の声に縮こまる。
抱えた頭には円筒の感触があった。大丈夫、まだ呑まれてはいない。息を整え気を静め……とにかく、逃げなけば。
顔を上げた。四畳半に正座している。
「は?」
「なっつかしいなあ、これ」
オッサンはあぐらをかいて座りやめろ何か冊子のようなものを覗き込んで待て、こちらの気配に気付き顔を上げだめだ宝物を見つけたような明るい笑顔でボクをみた。
「ほら」
おっちゃんがタタミの上にスクラップブックを広げてくれた。ボクは半ズボンの膝小僧をタタミにズリズリしながら、写真をのぞいたんだ。
【続】