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【ニンジャソン2023夏】ザイバツ・シャドーギルド【ニンジャ読書感想】

 まずはX-MEN2の話をせねばならない。

 いや待っ、待ってくれ。長くはかからないので、お願い、ね?
 さて。
 冒頭である。大統領執務室に襲撃をかけるミュータント。彼は短距離転移を繰り返しSPを翻弄していく。煙幕めいた残り香を置いて。
 彼の名はナイトクロウラー。迎撃の銃撃が与えた痛みにより洗脳から脱し、逃走した彼は、後にX-MENの面々と遭遇するのだが……彼の真実の姿は、繊細で気弱な青年であったのだ。
 強大な能力を持てあます、武威とは無縁の存在。
 そういうのが大好物だった私は当然虜に……ああうん、この話はまた別の機会に。
 話を戻そう。
 そう、ニンジャスレイヤーAOMにおける転移能力者といえば?
 もちろん。コルヴェット=サンである。
 異論は認めない(アンバサダーとディプロマット? 彼らは……ポータル能力者! ということにしてほしい)

 改めてエピソードを読み進め、冒頭の舞台がデジ・プラーグ(嗚呼、積層せし文化の都よ!)ではないことに面食らってしまった。
 そう、このエピソードのタイトルは『ザイバツ・シャドーギルド』
 彼らの至上命題であるカツワンソー討伐の鍵となる者、すなわちニンジャスレイヤーの確保を目論んだ舞台がデジ・プラーグであり、それに付随するのがコルヴェット=サンの物語なのだ。
 さらにはサンズ・オブ・ケオスの首魁たるブラスハートの登場、SOCのカルティストでありテロリストでもあるエゾテリスムの恐るべき能力、等々……再読してあらためて感じるのは、同一エピソードへ重層的に配置された展開の複雑さであり……コルヴェット=サンの恋路(本人は頑なに否定するが、我らがコトブキチャンにはまるっとお見通しである)は、そのピースの、小さな一片に過ぎないのではないか、とも思えてくる。

 とはいえ。
 否。
 だからこそ。
 コルヴェット=サンの事を語る。語らせてほしい。いや語るぞ。
 いちど熱を帯びた浪漫は止まらぬのだ。あの日、尖塔の窓の奥、紅の目を持つ姫を見初めたコルヴェット=サンのように。

 作中のモノローグめいた描写から察するに、コルヴェット=サンの行動選択には常に「逃げる」コマンドがある。「たたかう」と置換されている気配さえある。
 彼は今まで躊躇なく(後悔は……あったのだろう)「逃げる」を連打してきたのだろう。それは隠密に長けたローグ・ニンジャクランのソウルの恩寵でもあり、コルヴェット=サン自身の性根……エゴ、とも言えるかもしれないそれが、ソウルと合致していたのかもしれない。

 だが。
 当エピソードの時系列において、彼はもう逃げられぬ。逃避の二文字から香る甘ったるいロマンよりも尚、鋭く胸を打ち心を焦がす慕情の浪漫を知ってしまったのだ。
 その浪漫は時に生存より優先される。むしろ、コルヴェット=サンの寿命を縮めてさえいるように思える。
 ……不摂生でオタッシャ重点。どこかのサイバーツジギリを思い出しますね?
 あるいは。彼の行動原理たるエゴは、運命の出会いによって不可逆的に書き換えられてしまったのかもしれない。
 刹那の判断を求められる時、諦観と共に背後へ逃げるのではなく、浪漫を抱き前に進む、あるいは……天運に委ねる。
 そんな”危うさ”を、喜ばしいものとして捉えてしまったコルヴェット=サンは……それを推す身としては実に、そう……その……悩ましい存在である。
 もうちょっと命を大切にしてほしい。ノーモーションで死地に飛び込むの心臓に悪いんです。ベルリンの続きでうっかり爆発四散とかだめだよマジでさァ!

 閑話休題。

 当エピソードは、そんな愛すべき伊達男(あるいは駄目男)コルヴェット=サンの魅力を深く噛みしめることのできる、宝玉のごとき一篇なのだ。
 ぜひ皆もコルヴェット=サンの沼に沈んでほしい。あとヘラルド君もこれが初出だし。そう思うとダメンズの宝庫ですねこの話。素晴らしい……。

 以上です。

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