大藪大麻裁判 第二回公判リポート
令和4年3月25日
前回同様、今日も天気が良く、暖かい日となった。
大藪龍二郎氏と丸井主任弁護士は、午前10時に前橋地裁へ到着。すでに10名ほどの傍聴希望者が地裁の駐車場に集まっていた。
第一回公判以降、SNSなどを通じて多くの支持や、公正な裁判を望む署名活動なども活発になってきた。この動きを裁判所も見ているのだろう。今回は傍聴希望者が多くなると予想し、前橋地裁も傍聴券を抽選で配布する方針にしていた。
10時15分からの傍聴整理券の配布に合わせて、各地から40名を超える希望者が集まってきた。今回開廷される法廷は第四法廷。前橋地裁では一番大きな法廷であるが、コロナの関係で傍聴可能な人数は27名。残念ながら、それ以外の人たちは傍聴ができない。遠方から参加してくれて傍聴できなかった人たちに心苦しいと感じていた被告人の大藪氏と支援グループは、今回の弁護側の主張がわかる資料や裁判内容を記したフライヤーなどを配布した。
裁判所の正面には数名の裁判所職員が腕章をつけて傍聴希望者の誘導を行っている。建物の脇にある入り口で整理券をもらい中に入り、抽選を行う。多くの職員が今回の公判のために動いているようだ。
当たったひとたちは喜び、その場にとどまるが、残念ながら外れてしまった人たちも、情報交換をしながら交流を深めていた。
大藪氏、丸井弁護士は10時30分には控室に入り、今回から弁護人として参加する龍谷大学の石塚教授と合流。控室で最終打ち合わせを行う。とはいっても、令和3年10月26日の第一回公判から、既に半年近く経過している。この間に、裁判官、検察官、弁護人、被告人による今後の裁判運営についてのリモート会議が2回行われた。弁護側も、何度も会議を行い、主張を立証するための証拠を調査し、証人になってくれる人たちとも話し合ってきた。この時点で弁護側は、証拠29通と4名の証人を裁判所に申請していた。そのため、控室での打ち合わせは進行の確認程度にとどまった。何よりも、数か月間、リモート会議で何度も話し合いをしていたが、丸井弁護士と石塚教授、そして大藪氏は、この日が初対面であったため、プライヴェートな談話が続き、穏やかな雰囲気の中で開廷時間を待っていた。
10時50分。控室に女性職員が訪れ、被告人と弁護人2名は法廷に向かう。
第四法廷の傍聴席は40席以上ある。しかし、前述したようにコロナのため定員が27人となっていた。
静かに待つ傍聴席。正面には裁判官。そして、左側の検察側には2名の検察官が座っている。前回は鈴木雅美検察官1名だったが、今回は黒澤葉子検察官が加わった。さらに、検察官たちの後ろには3名の司法修習生が座っている。
そして、向かって右側の弁護人席には、奥の席に丸井主任弁護士が、その左となりには石塚弁護士が着席し書類の準備を始めている。
弁護人席の前にはベンチ型の長椅子がある。被告人である大藪氏は、ここに座った。大藪氏は現在保釈中のため、この椅子にひとりで座っているが、被告人が拘留中の場合は、手錠と腰縄をつけられて入廷した被告人がこの場で拘束を解かれ、二人の警官とともにこの椅子に着席する。
大藪氏も準備を始めている。すると、書記官は歩み寄り、大藪氏も弁護側の席に座るように促した。
この書記官の態度に対する感想として、丸井弁護士は「刑事事件で弁護人席に被告人が座るのは、極めて異例であり、私の48年の弁護士生活では始めての経験である」と述べている。
開廷
裁判官
それでは、時間になりましたので開廷します
午前11時。水上裁判官が静かにそう宣言し、大藪龍二郎氏の第二回公判が開始された。
裁判官
今回は弁護人から改めて冒頭陳述を行う予定になっていますが
丸井弁護人が立ち上がり、裁判官に向かって言った
丸井弁護人
本件質疑についての要望書を作ってきましたので、これを陳述させていただきたいです。それと、弁護人側の罪状認否がすんでいませんので、これを行いたいと思います。
また、冒頭陳述の2と3を、私と石塚弁護士でやり、被告人の方から追加の意見陳述を行う予定であります
裁判官
公訴事実に対する認否からでいいですか?
丸井弁護人
要望書の陳述をさせていただけませんか?これは本件審議の基本ですので陳述させていただきたいです
裁判官
それではどうぞ
本件審理についての要望陳述(全文へリンク)
丸井弁護人は書面を右手に持ち、検察官を見つめながら陳述をはじめた。
丸井弁護人
検察官に対する私の要望なのですが、私はすでに求釈明を求める書面1,1の補充、申立て2、申立て3について示しています。しかし、いまだに答弁がありません。これは本件の争点を明らかにするものでありますので、きちっと答弁していただきたいと思います。
答弁できない場合は、裁判所は前回、求釈明はしないと言っていましたが、現段階においては検察官が起訴したのですから、本件大麻がどのようなものであるか、どのような弊害があるのかということを立証すべきだと思います。大麻とはどのようなものであるかということを。その点についてははっきりするように、裁判官から釈明勧告でもしていただきたいと思います。
それから検察官は、弁護人の出した1から28号証までの証拠をすべて不同意、証人についても4名に異議ありとしていますが、どのような理由によるものなのでしょうか。
異議の理由は何なのか、明らかにしていただきたいと思います。
憲法37条には、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」とあります。これは、被告人の権利を否定するものと、私は思います。
検察官の不同意と異議との見解を撤回していただきたい。もし、弁護人の証拠に対して信用性がないとか内容に問題がある場合は、検察官の方で立証されたらどうなのでしょうか。
そして、この件につきまして、長吉秀夫氏がチェンジオルグという署名サイトで、公正な裁判を求める署名活動を2月23日から始めておりますが、3月23日の段階で2585名集まっています。それ以降もどんどん増えています。これについては末に添付してありますが、この署名も別途証拠申請したいと思いますのでよろしくお願いします。
本件審議の基本的な問題でありますが、本件大麻とされるものが、1953年にリンネによって発見されたサティバという大麻の種(しゅ)の茎と種以外の部位であると証明すること、そして、本件大麻とされるものは、刑事罰を科すほど、心身に有害なものなのかどうかについて、検察官は立証する責任があると私は感じています。
本件審理についての要望書 (全文リンクへ)
検察官は、弁護人が提出している公訴事実に対する求釈明申立書1、同求釈明申立書1の補充、同求釈明申立書2、同求釈明申立書3について真摯に答弁をしていただきたい。
答弁ができない場合には裁判官から求釈明をしていただきたい。検察官は弁護人請求の全ての書証弁1ないし24号証を不同意とし、全ての証人4人ついて意義があるとしているが、その理由を明らかにされたい
検察官は、本件大麻とされるものが「カンナビス・サティバ・エル」であること、及び刑事罰を科するほどの有害性を与える物であることについて立証する責任がある。
本件大麻とされるものを含有する植物細片約3.149グラムの所持が刑事罰を課するほどのものであると言うことを検察官が立証できない場合には、裁判官は犯罪の成立証明不十分として無罪判決を言い渡すべきである。
丸井弁護人
検察側は大麻について何も立証していないんですよ。今後、立証もしないというならば、裁判を打ち切って証拠不十分で無罪にすべき事案だと、私は法律家として素直にそう思います。私の特別な意見ではありません。その点よろしくお願いします。
丸井弁護人は裁判官にそう述べると、検察官二人に視線を向けた。
しかし検察官は机上の書類をめくりながら下を向いたままだ。
丸井弁護人の発言は「公訴事実に対する認否」へと移った。
公訴事実に対する認否(全文リンクへ)
丸井弁護人
次に、公訴事実に対する認否ですが、「みだりに」については否認します。
第1 「みだりに」「所持した」ことについては否認する。
理由1:
「みだりに」の定義は、大コンメンタールⅡ薬物五法 大麻取締法65頁にあるように「社会通念上正当な理由が認められない」ということである。
本件大麻とされるものの所持目的は、被告人の健康保持のためであり、その目的には正当な理由がある。
理由2:
本件大麻所持によって第三者に何らかの被害を与える可能性が全くないのであるから、大麻取締法の保護法益とされる「国民の保健衛生の保護」を侵害する可能性全くなく、「みだりに」「所持した」と評価することはできないものである。
丸井弁護人は、不起訴処分となった二つの事案を示し、「このような不起訴処分がなされていること自体、本件大麻所持は「みだり」ではないことを明らかにしているものである」と主張した。
第2。本件大麻とされるものが大麻取締法で規制されている大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品であるのかどうかについては争う。
理由1:
大麻取締法は「大麻」の定義として、「大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品」と規定しており、現行大麻取締法で規制されている大麻はカンナビス・サティバ・エルと呼ばれる種(しゅ)のみであり、かつ大麻の薬理成分とされるTHCの含有の有無とは無関係である。
「同じ麻なら名前が少し違ってもいいのではないか」という議論は通用しない。なぜならば大麻取締法は市民に刑罰を加える刑事法規であるから、憲法31条の適正手続で保証されている罪刑法定主義の原則を持ち出すまでもなく厳格に行われなければならないのであり、類推解釈・拡張解釈は許されないからである。
第3。本件において検察官は、本件植物片を上記の意味での1953年にリンネによって発見された「カンナビス・サティバ・エル」という麻の種(しゅ)の種(たね)、茎以外の部位であること、及び本件植物片が茎以外の部位であること、心身に刑事罰を科するほどの有害性を与える可能性について立証する義務がある。そして立証できない場合には、犯罪の成立証明不十分として無罪判決を言い渡すべきである。
法律上の意見(冒頭意見陳述)2(大麻取締法の憲法及び条約違反性) (全文リンクへ)
丸井弁護人
次は、私の冒頭陳述の2 であります。前回冒頭陳述1を出しましたが、これは可罰的違法性がないこと。そして適用違憲であるということが主な主張でしたが、今回は、そもそも大麻取締法という法律自体が、日本国憲法および、大麻を規制する国際条約である1961年麻薬に関する単一条約と生物多様性条約に違反するという主張をしたいと思います。
第1 大麻取締法の違憲性1
1。大麻取締法は憲法第31条の適正手続き条項に実質的に違反し、また同法第22条の職業選択の自由や同法第13条の幸福追求権そして同法第25条の文化的な最低限の生活の保障、36条の残虐な刑罰の禁止に各違反する違憲立法である。
丸井弁護人
戦後の大麻規制は、占領米軍によるポツダム命令からはじまります。GHQは当初、大麻草の全面焼去を命令しました。大麻草は、縄文時代から日本人の生活に密着し、衣料、食用、紙、医療や儀式用にも使われてきました。この大麻草の栽培をさせなくするということは、日本人の基本的人権の尊重を規制するものです。ポツダム宣言第10項の「基本的人権を確立すべし」という部分にも違反しています。
GHQが規制対象とした日本の大麻草は繊維をとるための種(しゅ)でして、THCは低いんです。CBDが多い「CBDA種」なんです。
だから、現行の大麻取締法の大麻であるかどうかは、CBDが入っているかも検査しなければいけないんです。それもやらずに逮捕しているんです。
大麻草は、まさにSDG’sの中心にある植物なんですよ。そこを裁判官も検察官も勉強してもらいたい。私も弁護士になって初めての時はわからなかった。麻薬かな?と誤解していましたが、勉強していくうちに気づいたんですよ。是非、再検討していただきたいです
では続いて第2について述べていきます
第2。大麻取締法の違憲性2
1。大麻取締法の保護法益が、過去の判例のように「国民の保健衛生」であるとしても、大麻には、刑事罰をもって規制しなければならない有害性がなく、大麻取締法は、憲法(第13条・第14条・第19条・第21条・第25条・第31条・第36条)に各違反し無効である。
大麻には致死量がなく、アルコールやニコチンタバコに比べて心身に対する作用は極めておだやかであり、個人の健康上も格別に害のあるものではない。
犯罪とは人の生命・身体・財産という具体的な保護法益の侵害であるが、大麻取締法違反事件においてこの様な法益侵害はまったくみられないのである。
丸井弁護人
現在、アルコールやニコチンタバコへの規制がありますが、酒には「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」があります。この法律の罰則は科料なのです。罰金以下なのです。大麻に対しても、これで十分だと思います。大麻に対して著しく厳しい。大麻取締法は、憲法第13条、第14条、第19条、第21条、第25条、第31条、第36条に各違反しています。
―――
憲法第13条 幸福追求権、第14条 法の下の平等、第19条 思想・良心の自由、第21条 表現の自由、第25条 生存権、第31条 適正手続の保障、第36条 拷問・残虐刑の禁止
「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」
(目的)
第一条 この法律は、酒に酔っている者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者をいう。以下「酩酊者」という。)の行為を規制し、又は救護を要する酩酊者を保護する等の措置を講ずることに酔って、過度の飲酒が個人的及び社会的に及ぼす害悪を防止し、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。
(罰則等)
第四条 酩酊者が、公共の場所又は乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは、拘留又は科料に処する。
2 前項の罪を犯した者に対しては、情状により、その刑を免除し、又は拘留及び科料を併科することができる。
大麻が有害なのは社会の常識(公知の事実)なのか?
丸井弁護人
最高裁は、昭和60年に、大麻は有害であると認定しています。しかしこれは、小法廷で書面審査しただけなんです。今までの書類を見ただけの事案なんです。そして、具体的な有害性は、自動車運転などに支障があるという程度なんです。
―――
2。最高裁判所は、昭和60年9月に大麻の有害性を認定しているが、その具体的内容は自動車運転に対する影響のみである。自動車運転における酒やその他の薬物はすでに道路交通法で規定されているので、それ以上に大麻を規制する具体的理由は存在しないものである。
また大麻に対する規制は、酒や煙草に対する規制と同様で十分である。大麻取締法の規制は、酒や煙草に対する規制と比較してあまりにも著しく厳しいものであり、憲法第14条や同13条の趣旨にも反するものである。
資料:「大麻の有害性は公知の事実」とする最高裁判決のきっかけとなった大麻裁判
第3。大麻取締法の違憲性3
大麻取締法は、「大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること」、「大麻から製造された医薬品の施用を受けること」をいずれも非常に重い刑事罰でもって規制している。大麻草には医薬用の有用性があるので、このような規制は憲法第13条・第25条・第31条・第36条に各違反している。
大麻取締法は大麻に関する広告を禁じているが、右規定は大麻に関して公に意見を発表することを刑事罰でもって原則的に禁止するものであり、憲法第13条・第19条・第21条・第31条・第36条に各違反している。
以上のような違憲規定を有する大麻取締法は、法律それ自体の保護法益が不明確なことと目的規定を欠いていることとあいまって、大麻取締法全体が違憲と評価されるべきである。
第4。大麻取締法は1961年の麻薬に関する単一条約に違反している。
1961年の麻薬に関する単一条約28条2項では、「この条約は、もっぱら産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る)叉は園芸上の目的のための大麻植物の栽培には、通用しない。」とされている。大麻取締法はまさに「産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る)」の大麻栽培を原則的に禁止しているので、この国際条約28条2項にも違反している。
第5。大麻取締法は生物多様性条約に違反している。
1992年5月に「生物多様性条約」がつくられ、2008年10月現在、日本を含む190ヶ国とECがこの条約に入り、世界の生物多様性を保全するための具体的な取組が検討されているが、大麻草を規制することは、この生物多様性条約の趣旨にも違反するものである。
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丸井弁護人は、主張を述べ終わると右手に持っていた書類を机の上に置きながら言った。
丸井弁護人
では、時間もありませんので私の主張は終わらせていただき、石塚弁護人の冒頭陳述をさせていただきます
弁護人冒頭陳述要旨(その3) 弁護人 石塚伸一(全文リンクへ)
石塚弁護人
弁護人の石塚です
今、主任からお話がありましたように、包括的な私どもの主張はご理解いただけたと思いますが…
2名の検察官に向かってゆっくりと静かな口調で語り始めたが、次の一言をはっきり張りのある声でいった。
石塚弁護人
本件における最大の争点は、大麻取締法という法律です。
他の薬物規制立法は、使用と所持を処罰しています。大麻取締法だけは、その使用を処罰していません。その「意味」です。
この一言で、2名の検察官は石塚弁護人をまっすぐに見据えた。石塚弁護人は続ける。
石塚弁護人
次は、これは被告人にとって最も大切なことですが、被告人は芸術家であり、芸術家としての自由があるのです。
この2点です。
具体的にいいますと、大麻取締法第24条の2の第一項は、大麻草を「みだりに」所持したものを処罰している。使用したものではありません。
大麻草というものは、「大麻」ではなく「大麻草」ですから、植物学的に特定されるべきものです。分析科学的に特定されるものでもありませんし、社会通念で決定するものでもありません。植物学上の概念です。それが、規制対象です。
二番目に、「みだりに所持した」というところです。
「みだり」とは、「法の根拠なく不当に」ということだと考えます。そうすると、「何の理由もなく」あるいは、大麻の使用に耽溺(たんでき)して、依存の状態にあるというような場合は確かにみだりかもしれません。しかし、近年の医学的見地からすれば、大麻には基本的に依存性がないということが世界的に認められています。日本でも科学的にそれを論証できる段階になっております。
三番目は、「所持」です。
他の薬物規制法は使用を処罰しています。薬物は、他人に注射を打たれるなどということがない限り、その前段行為として所持をしていないと使用できません。
ということは、大麻の使用を処罰していないということは、その直前の占有下に大麻草があるという状態、それが譲渡目的や、量的に非常に多い場合は別ですが、少量の自己使用のための所持は、そもそも構成要件該当性を欠いている。そのように大麻取締法の立法者は考えたとしかいえません。
構成要件については、今の3点です。
そして今回、大藪さんは芸術活動を続けていくために、パニック障害という病気を抱えていて、それを自己治療するために、海外での経験を踏まえてコントロールしながら大麻を使用していたということです。
ということは、日本における過度の薬物の使用が、とりわけ向精神薬の使用は、どのような弊害をもたらしているのか?そのことを知る人間であれば、明らかに大麻による自己治療の方が芸術活動を継続し、平穏に生活していく上で効果的であることは、医学的に立証可能です。
私どもは、それを立証するために証人の申請もしておりますし、証拠の申請もしております。検察官は、それを一切、意義ありとか不同意とかいうことで、この法廷で議論することを避けようとしています。
私どもは、正当な理由があることを、ある種の自救行為である、あるいは可罰的違法性がないことを、この法廷で具体的に立証したいと考えています。
この裁判は憲法上の権利が争われている裁判です。
大麻取締法第24条の2項の構成要件は不明確です。明確性に欠いています。それを本件に適用することは、憲法に違反していると考えます。
次に、この裁判は公正な裁判を受ける権利を争っていると同時に、大藪さんという芸術家に犯罪者というレッテルが張られることによって、今後の彼の芸術活動にとってどのような影響があるのかを配慮したうえで、制裁を考えるべきです。
その意味では、単純に本法規を適用することは、残虐で異常な刑罰にあたることは、主任が申し上げた通りです。
最後に、大麻取締法それ自体が、70年以上前に制定された法律で、現在、厚労省では大麻取締法について使用罪の申請を考えています。
それは、従来の大麻草という植物の規制法から、THC等の向精神物質についての規制へと変える時代が来ているからだということです。
ところが、この旧い大麻取締法を現在の状況の中で被告人に適用することは、そもそも問題がありますし、さらには、大麻草の栽培という職業選択の自由を著しく制限しているものと理解します。
以上の理由で、被告人は無罪であることを、私どもは立証したいというように思っております。
以上です。
石塚弁護人が話し終わり着席すると、裁判官は静かにいった。
裁判官
被告人からも冒頭陳述があるのですか?
大藪
はい
裁判官
それではどうぞ
大藪
よろしくお願いします
大藪氏は左手に書類を持ち、立ち上がると、大藪氏は冒頭陳述の追加を読み上げ始めた。前回よりも何か堂々とした雰囲気を感じる。
被告人冒頭陳述書(追加) 大藪龍二郎
大藪
はじめに今回の意見陳述では、私が本裁判においてなぜ執拗に大麻草の真実を詳らかにして頂きたいのかという思いを説明し、次にそのために必要な審議を求める裁判長への嘆願を述べ、最後に陶酔する自由についての意見を述べさせて頂きたいと思います。
前回の第一回公判にて、私は縄文時代に使われていたであろう道具や焼成法を再現し、現代のやきもの表現へと反映させる手法で作品を制作しております。そして大麻草の繊維を螺旋状に撚り合わせた縄の道具「縄文原体」は、私にとって単なる道具ではなく不可欠なものであると説明させて頂きました。今回はなぜ私にとってこの道具が不可欠であり大麻草の真実を追及しなければならないのかをもう少し補足説明させて頂きます。なぜならこの点は私が今後アーティストとして活動を続けながら生きてゆく事に非常に関わりが深いからです。
「大麻草は悪いものです。すみませんでした」と安易に自身の信条に逆らい、嘘をつく事は「踏み絵」を踏まされる事と同じ事であり、そのようなことをしてしまえば今後、私は道具を触るごとに罪悪感に苛まれ一生作品を作ることが出来なくなってしまいます。
ですから大麻草の社会的あるいは保健衛生上の有害性を具体的に検証する事なくこの裁判を進める事は、私から職業選択の自由や生存権を奪う事に繋がる事であると是非ご理解して頂き、改めてこの度の裁判の審議過程において裁判長に以下のことを強く嘆願させて頂きたいと思います。
検察官には、第一回公判において提出した、求釈明申立書1および2のすべての釈明事項に答えていただきたい。
公明正大な裁判であること。
弁護側が請求したほぼ全ての証拠、証人に対して「不同意・異議あり」とする検察側に対し、裁判長からの釈明権発動を心からお願いしたい。近年、世界では大麻草の研究が盛んに行われ、これまでの社会通念を覆すような新たな事実が多く発見されています最新の「大麻草の真実」を詳らかにして頂きたい。その上で審議し、判決を下していただけることを心から望みます。
以上にあげました3点はいずれも今回の裁判の進行に重要な要素であり特に、公平な裁判を受ける権利、証人を請求する権利など憲法に規定されている権利ですのでかならず守られるべきであると強く主張したいと思います。よろしくお願いいたします。
加えて、政府は国内において陶酔性の高いアルコールを認める一方で、科学的な検証もなく一方的に有害であるとして大麻草の所持を規制し実質上THCと呼ばれる陶酔成分を取り締まっています。この事実は私のようにアルコールに著しく耐性の低い国民の「酔う自由」を阻害する極めて不公平な法律であり、「酔う」ことで得られる幸福を追求する国民の自由を奪うことで精神保健衛生上に危害を及ぼしています。よってこの法律は国民の幸福追求権を侵害する憲法違反法であると指摘したいと思います。さらには私のようなアーティストにとって意識変容、感受性の探求は至上命題であり、被害者のない大麻の単純使用については職業上認められるべき義務であるという主張も付け加えさせて頂きたいと思います。
以上です。
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大藪氏は冒頭陳述を朗読し、着席した。
検察は証拠不同意の理由を明らかにされたし
弁護人、被告人の発言が終わり、今回、弁護人が申請した三通の証拠についての話し合いがはじまった。
裁判官
弁護人から、弁26号証から28号証の証拠請求が今日出されましたが、これについての検察官の意見はいかがでしょうか。
検察官
事前にファックスでいただいたものと同じ内容ですよね
丸井弁護人
そうです。すべて不同意と聞いていますが
裁判官
はい、不同意ということです
この発言に、傍聴席では複数のため息が聞こえる。
丸井弁護人
これも同じなのですが、不同意の理由を述べてほしいです。
私の理解では、不同意というのは反対尋問を保証するためのものなのだと思うのです。ある書面が出たときに、それに反対尋問をする機会を与えてほしいということから、不同意にするというのが、この制度の趣旨ですよね。ある証拠が不同意とされた場合は、証人を請求し、証人の反対尋問を行うことになります。だから検察官は、何が原因で不同意にするのか、理由を明らかにすべきなんです。理由のない不同意は無効だと私は思います
裁判官
不同意が無効だというのは、どういうことですか?
丸井弁護人
理由をきちっと示さない限り効果がないということです。理由を明らかにしていただきたい
2名の検察官は無反応に机上の書類をめくりながら眺めている
裁判官
検察官から何かありますか?
検察官
私どもとしましては、いずれの弁号証につきましても必要なしということで不同意にしています
傍聴席からは、またしてもため息が漏れる。
丸井弁護人
必要性がないと… 弁護人は必要だと思ってやっているのですが、どうして必要性がないのか、それを明らかにしていただけますか?
検察官
これ以上については述べる必要はないと考えております。必要性につきましては、裁判官の所感で明らかにします
丸井弁護人
では、あとは裁判官におまかせします
裁判官
趣旨として、伝聞で争うのではないということですか?
検察官
立証によりますので、書面ではお答えできません
裁判官
さらに明らかにすることがあればお願いします
いずれにせよ、まずは検察官の立証となりますので、検察官の立証をしたうえで裁判所は弁護人が請求した証拠や証人について、必要性を判断していきます。
丸井弁護人
伝聞性を争うということならば、証人でやってもらいたいです
信用性が問題になるならば、どこに信用性がないのかを明らかにしていただきたい。
検察官も、大麻とはどういうものかということについて、積極的に証拠をだしていただきたい。
裁判官
弁護人の主張について、証拠や証人によって立証しなければ証明にならないと主張していただければ、何が必要かは裁判所が判断していきます
検察官に、何を立証してほしいと直接いうのではなく、検察官としてこれをしなければいけないという主張を明らかにしていただきます。そして、検察官が立証したうえで、その内容を踏まえて、弁護人の立証の必要性について、裁判所が判断をするということになります。
丸井弁護人
では、弁護人の主張について、伝聞性を争うのか、信用性を争うのかを明らかにしていただきたい。それによって追加の証人も出さなくてはいけないです。署名もどんどん集まっています。国民が納得できる裁判を行ってほしいです。形式的にやるのは問題があると私は思いますよ。
裁判官
今後の進行としては、検察官から証拠請求されているものがあり、裁判所として必要なものがあるので、採用して取り調べをすることになります。
第3回公判から、裁判官が交代する
裁判官
前にも申し上げましたが、4月で裁判官が交代になります。そのため、弁護人は改めて主張したいと言われていましたが。
丸井弁護人
更新弁論を原則的にきちっとやってもらいたいです
そして、求釈明を含めて、こちらの主張をもう一度しますので、検察官はきちっと釈明してください。
裁判官
検察官はなにかありますか
検察官
特にありません
裁判官
では、次回は裁判官が変わるので交流手続きを30分ほど行う必要があります。そのうえで弁護側は、いままでの主張をまとめて30分くらい口頭で行ってください。
また、検察官から請求されている証人の警察官2名ですが、そのうちの1名の証人尋問を行います。検察官からの主尋問が20分、弁護人の反対尋問が40分です。次回は約2時間になります。
第3回公判予定について
裁判官
次回公判は、令和4年5月11日(水)13時30分から15時30分。今回と同じ、四号法廷で行います。
それではこれで閉廷します。
大藪大麻裁判 第2回公判は閉廷した。