「6人の嘘つきな大学生」を読んだ


ミステリと聞いて連想する単語といえば「殺人事件」「刑事」「探偵」あたりなんだろうけれど、この本はミステリでありながら「就活」「大学生」と言ったワードが付随する。とても日常的なのだけれど、書かれる内容は生きるか死ぬかのデスゲーム、この上無いほどのサスペンスだった。

超大手IT企業の最終面接は「自分たちで内定者を決める」という、就活生のみで行われるグループディスカッション。「正々堂々とやろう。だれが内定しても後悔しないように。」そう意気込んで入室する6人の就活生だったが、部屋にはそれぞれの名前宛の謎の封筒が置かれており、中身は各人が犯した「罪」の告発であった...

というのが大まかなストーリー。嘘と見栄と策略が入り混じり、誇張抜きにここから物語が10回以上展開して転がっていきます。物語の前半はグループディスカッションで大学生たちの思惑が入り乱れる阿鼻叫喚パート、後半では8年後から当時の真実を探るパート。要所要所で過去と未来とがオムニバス式に描かれていく(朝井リョウ「何者」でも似たようなのあった)のだが、これが本当に論理的に美しい。時系列が分からなくなって最初から読み直す、というようなことがなく一気に読み進められた。この時系列表現があるべき理由で、あるべき場所に、あるべき書かれ方で配置されているのが読み進む中でどんどん分かっていって本当に気持ち良い。この書き方マジで難しいと思うんだけどどういう脳の構造してんだ。

これだけでもめちゃくちゃ面白い小説になるし売れるし人々にぶっ刺さると思うんだけど、そのような、「論理・設定が奇抜かつ整理されたすごいミステリ」で終わらないのが個人的に1番評価したいところ。この小説の本当に恐ろしいところは、難解かつ簡潔なロジックが構築→完結していく過程の中に、登場人物、もっと言えば紙面の向こう側にいる筆者自身の想いが見えてくるところ。これがマジでヤバい。何がヤバいって読めばわかる、ヤバいから。「就活」という具体的なイベントに対するものへ対しての感情、またそこからもっと枠を広げて人間関係そのもの、人が人を見るとはどういう意味を持つのか、といったところに対する感情が、叫びとか祈りとかそういうベクトルに乗っかって飛び出してくる。前述した論理的な表現と、この感情的な表現が矛盾なく一緒になっていて、その2つが相乗効果でより効果的に見えるように配置される文章構成。そんじょそこらの小説ではちょっとお目にかかれない。

今までいろんな本を読んできたけれど、その中でも「完成度」という一点において群を抜いている。完成度、という日本語の意味が伝わっていないかもしれないが、読めばわかる。「完成度」だ。就活という日常的テーマの中でミステリを構築することに関して、最初はイロモノ系だと思ったが全然裏切られた。ゴリゴリの正統派、150キロの火の玉ストレート。音楽や芸能と同じように、文学、それも「ミステリ」という分野の小説も時代によって洗練されていくんだと思わされた。少なくとも、2022年現在において、20代にとって1番適したミステリはこれです。しばらくはこれより完成された現代ミステリは出てきません。俺が言うんだから間違いないです。各人必ず読むように。よろしくお願いします。

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