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阿部寛さんの事務所設立に思うこと。

オフィス茂田の閉鎖に伴い、阿部寛さんが個人事務所「オフィスA」を立ち上げた。僕も阿部さんのファンで、その(古めかしさで話題になる)ホームページが1番のファン(とされる誰か)の愛の産物であり、それを大事にする阿部さんの人柄や優しさが大好きだから、こんな記事を書いたものだ。

そして今回の発表も、かのホームページに阿部さん直筆でなされた。さすがである。彼の姿勢は、ある人物と比べることで、鮮やかになる。

元同僚・名取裕子さんと比べると

そう、同じくオフィス茂田で活動をしていた名取裕子さんだ。彼女は阿部さんに先立ち、今年5月にホリプロに移籍された。そして彼女の(これまた古風な)ホームページはお役御免とばかりに閉鎖された。

間違いなく、茂田社長の引退は、かなり前から議論されていたことだろう。自らの処遇を考える時間は両者ともにあったはずだ。名取さんはより堅実であろう道を進んだ。大手中の大手、福利厚生も仕事の依頼も多数ある。阿部さんにもそのようなオファーは、それこそ茂田さんが勇退する意向を示す前からあったことだろう。

阿部さんほどの存在がオファーに悩むことはないだろうけれど、芸能事務所がパワー持つこの日本、個人事務所では仕事はマネージャーが直接取っていかなければならない。それはまさに規模の経済。さらに、自分でやらなければならないことも多くなるし、肩代わりが効かない。件のホームページ管理人も仕事が増えるだろう。フリーランスにほど近い個人事務所は、芸能界ではコスパは悪い。しかし「だが断る」と言わんばかりに、彼は個人事務所という茨の道を進んだ。

阿部さんにとって、茂田さんは不遇の時代をともにしてきた戦友であろう。年齢については存じ上げないのだが、ひょっとしたら芸能界の母と言えるお歳かもしれない。名取さんよりも若くから一緒に仕事をしてきた身、彼の茂田さんへの尊敬は人一倍なのは想像に難くない。その思いは阿部さんのメッセージにも色濃く反映されている。茂田さんだからこそ、ここまで頑張れたのだと。

義理堅さと謙虚さ

おそらく阿部さんは、茂田さん以外の下につくつもりはなかっただろう。彼の名刺代わりと言えるホームページを残しつつ、うちへ来ないかという他の事務所のオファーあっただろうに、個人として活動することになった。その心のうちは、声明文のこの文によく現れている。

茂田さんの常にプラス思考な人柄はまわりの人を助け、その真摯な仕事ぶりは多くの人に愛され、数多くのご縁をいただいてきました。

今私があるのはそんな茂田さんとそして共に歩んでくれた事務所スタッフのおかげと感謝しています。

阿部寛のホームページ

シンプルではあるが、茂田さんを始めとした周りの人々へのストレートな謝意は、僕の胸を打った。その巨躯とは違い、傲慢さなどひとかけらもない、周囲への感謝を忘れない、ただただ謙虚な一俳優としての姿がそこにあった。彼が演じた役の中でも一番突飛そうだが、しかし実に似合っていた、ローマの浴場技師・ルシウス・モデストゥスもかくやという謙虚(モデストゥス)さである。

そのような姿勢を崩さない彼にとって、事務所の規模など問題では無かろう。それこそ大手と言えないオフィス茂田の面々が彼の道を切り開いてくれたさまを見ればなおさらだ。茂田さんは少数精鋭で彼や名取さんという逸材の面倒をしっかり見たという点で、小国でも滅んでも民のためにはならない強い君主だったのだ。

茂田さんの「引き」は無くなるが、逆に身軽になった彼は、それを活かしてさらに活躍することだろう。57にしてドラムに挑戦する以上の何かもあるかもしれない。そう、阿部さんも来年で還暦だ。そう遠くないうちに老境を見せてくれるだろうが、どんなものになるだろうか。

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