ツレピの飛行機は飛ばない。
ツレピは飛行機に乗って目的地に着いたことがない。
中学の修学旅行で中国に向かおうとした矢先、四川大地震が起こった。
大学の時、友達とイタリアに行こうとしたらドバイでトランジッションに失敗してトンボ帰りしてきた。
長崎にお泊まりデートをしようと思ったら、前日に私がインフルエンザになって寝込んだ。
新婚旅行には、飛行機に乗ってどこかに行こうと約束した。
世間はコロナで大騒ぎだった。
何もかもが落ち着いたら、鈍行列車で、ツレピとふたり、箱根にでも行こうかな。
そばに喉鼓を鳴らして、日本酒を嘗める。富士山にかかった雨雲を残念がる。
そのくらいが、きっとちょうどいい。
その前に、夢の国へ、ちょっくら行ってくる。
ふざけた帽子にちゃらけたサングラスをかけて、浮かれたチケットホルダーを首から下げて、可愛らしいぬいぐるみを抱いて回るのが、正式な回り方だと、悪友が教えてくれたから、その教えを守って、旅をしようと思う。
そうして私らは、飛行機雲を指でなぞって、空を飛ぶほどの非日常に喉を鳴らすのだ。