過不足なく、つつがなく
ここ数年の間に、いつの間にか満足に歩けなくなってしまった方は少なくありません。
気付かないうちに、日常の散歩や買い物さえできなくなっていた、という事です。
つい最近まで、「極力外出は控えるように」「他者との対話は最低限に」することが是とされていたのですから当然の帰結でしょう。
大抵の場合、まさか自分の親に限って、そのような状態になっているとは考えないものですよね。
そういうわけで、ご本人様ではなく、身内の方から「なんとか自力で生活できるようになりませんか?」というご相談が増えました。
実はかなりの難題で、お話は伺っても折り合いがつかず結局お引き受けできないケースの方が多いのが現状です。
まず問題になるのが、ご家族の思いと相反し、ご本人様にその気がないことでしょうか。
直接お話をして「トレーニング(リハビリ)は不可欠ですが頑張れそうですか?」と尋ねると、「いや、トレーニングはしたくないです。老化ですから仕方ありません」と仰るが多いのです。
筋力や体力を取り戻さない事には元の生活など不可能ですから、ご本人様が望まないのであればどうにもなりません。
「うちの親はやる気があるので問題ありませんよね?」と問われると、こちらも決して簡単なお話ではないのです。
実際の状態を拝見したうえで経過を見守りつつ、増やしたり減らしたりしますが、当人にあわせた適度な運動を提案します。
例えば「毎日1000~2000歩きましょう、痛みがでるようなら中止してくださいね」こんな感じです。
それで、1週間なり2週間後にお越し下さった際、結果を尋ねると満面の笑みを浮かべながらこう仰るのです。
「8000も歩けました! けど、腰と脚が痛いです」
冗談でも何でもなく、この展開が珍しくありません。本当に多いのですよ・・・。
「お願いだから2000以上歩かないでくださいね、徐々に筋力と体力を戻しましょう、絶対ですよ?」と念入りにお伝えしても、次に顔を合わせると、やはり「9000歩けました、腰と脚は痛いです」と仰るのです。
なぜ増えてしまうのか尋ねると「歩ける時に好きなところに行っておきたい」とのこと。まったくもって儘なりません。
この展開になって何が困るのかと言えば、「そのうち故障するかもしれない」ではなく、近い将来に故障することがほぼ確定している点ですね。
運動しないのも、し過ぎるのも、寝たきりに直結してしまいます。そういうわけで、慎重にならざるを得ないのです。ご了承くださいませ。