永田喜嗣(永田ヨシツグ)

大阪府出身。大阪芸術大学で演劇を学び、愛媛大学でドイツ文学を専攻、大阪府立大学人間社会…

永田喜嗣(永田ヨシツグ)

大阪府出身。大阪芸術大学で演劇を学び、愛媛大学でドイツ文学を専攻、大阪府立大学人間社会学研究科博士課程修了(人間科学博士)。 戦争映画研究家、作家、大阪公立大学非常勤講師。

最近の記事

『独立機関銃隊未だ射撃中』−見せたくないラストが描き換えられたワケ−

⚫︎『独立機関銃隊未だ射撃中』−見せたくないラストが描き換えられたワケ−  東宝という映画会社は少し保守的な傾向があったように思う。戦後設立された東映は時として、独立プロ系かと思わせるような、政治や社会に対して厳しい目を向ける作品も多かったが、意外と東宝にはそういう作品の傾向は強くないように見える。  1961年の怪獣映画『モスラ』の原作を書いたのは中村真一郎、堀田善衛、福田武彦の3人の作家だが、その原作『発光妖精とモスラ』は安保闘争を背景にした政治色の強いものだった。

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      『西部戦線異状なし』−窓が分かつ傍観者と当事者の構造− 「窓」というものを効果的に使った映画といえば、多くの人がアルフレッド・ヒッチコック監督の1954年の作品『裏窓』を思い出すのではないだろうか。事故で足を骨折して静養しているカメラマンのジェフ(ジェームズ・スチュアート)が向かい側のアパートの一室の異変を目撃し、何かしらの事件を感じて観察してゆく。  やがて,ジェフの部屋を訪ねてくる恋人のリザ(グレース・ケリー)やメイドのステラ(セルマ・リッター)をその観察と推理に巻き

      • 『ルパン三世』『イングロリアス・バスターズ』、ワルサーP38をめぐる反逆とファシズムの映画表象

        『ルパン三世』『イングロリアス・バスターズ』、ワルサーP38をめぐる反逆とファシズムの映画表象 1、日本で最も有名な拳銃-ワルサーP38  有名なドイツの軍用拳銃、ワルサーP38。  日本ではルパン三世の愛銃として有名で人気がある一丁。  どこの国の拳銃で、どのような形をしているのかについて知る人は少なくとも、日本ではその名を知らない人も少ないワルサーP38。  日本ではワルサーP38といえば多くの人が男女問わず(それはアニメや映画に興味のない人まで)一度は聞いたこと

        • 映画「『風立ちぬ』の小さな考察−反ファシズムのミリオタ映画」

          ★本稿は2013年に公開された宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』公開直後に筆者が書いた考察論文を短縮し簡易化しエッセイにしたものです。 元原稿は公開する機会に恵まれず今日までお蔵入りとなっていました。 11年も経過していますが、その後の研究や考察は加えておりません。映画公開直後の新鮮な考察をそのままお読みいただければ幸いです。           筆者:永田喜嗣 ******************* 映画「『風立ちぬ』の小さな考察−反ファシズムのミリオタ映画」 1.映画『風

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          『GMK・大怪獣総攻撃』の解読:太平洋戦争と戦争責任(後編)

          ⚫︎戦争映画に見えない戦争映画大全 『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』太平洋戦争と戦争責任(後編) ⭐️いつもながらネタバレ満載です。ご容赦の程を。 『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』2001年・東宝 監督:金子修介 脚本:長谷川圭一    横谷昌宏    金子修介 出演:新山千春    宇崎竜童    天本英世 ★前編に引き続き『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』を戦争映画としての視点から解読します。 1、ゴジラの正体 『ゴジラ

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          『GMK・大怪獣総攻撃』の解読 太平洋戦争と戦争責任(前編)

          ⚫︎戦争映画に見えない戦争映画大全 『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』太平洋戦争と戦争責任(前編) 1、ゴジラとは何か?  ゴジラとはなんであるか?  ゴジラとは太古から海底の底に眠っていた恐竜の生き残りであり、それがたび重なる水爆実験によって目覚まされ、怒り狂って日本を目指して東京を破壊し尽くした。  そのゴジラも核爆弾を超える破壊力の可能性を秘めた「新発明」によって東京湾で殲滅させられた。  これが「ゴジラとは何か」という問いに関する答えの一つである。

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          エッセイ:危ないぜ⁉️ 戦争映画研究❗️

          ⚫︎エッセイ:危ないぜ? 戦争映画研究 「戦争映画とイデオロギー」  戦争映画について考える、戦争映画について書く、戦争映画について語る……この一連の行為を専門にやっている人というのはかなり少ないのではないかと思う。  かく言う私はその一人だが、戦争映画を中心に映画を考えるとか、語るとか、書くということは、ぶっちゃけてしまえば、この「日本」ではあまり生きてゆく上で有益とは言えない。  活躍する場所も狭いし、書いたり語ったりする機会も場所もほとんどないに等しい。  考え

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          『とむらい師たち』の戦争と死

          ⚫︎戦争映画に見えない戦争映画大全 『とむらい師たち』1968年 監督:三隅研次 原作:野坂昭如 脚本:藤本義一 出演:勝新太郎    伊藤雄之助    藤村有弘    藤岡琢也   ⚠️ネタバレ満載です。ご容赦ください!  まず最初にこの映画は戦争映画であると断言させていただきたい。  それは、どうしてなのか……  「葬儀」に「死への畏敬の念」を演出する理想を持った勝新太郎演じる「とむらい師」の主人公「ガンめん」が、同志を集めて新しい葬儀の形を広めようとする。それは

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          『バトル・ロワイヤル』という戦争映画が示した戦争のすべて

          『バトル・ロワイヤル』2000年 新世紀最高の戦争映画としての解読 「で、バトル・ロワイヤル観ました?」  2001年の夏ごろだったか、サバイバルゲームの帰りに同乗させてくれた仲間がハンドルを握ったまま尋ねてきた。 「話題になってたよねー、ぼくは観てないんだよ。ちょっと気が進まなくてね……」 「そうなんですか? 内容はご存じですか?」 「中学生がゲームみたいに山にこもって殺しあいするって内容とか……」 「そっすよ、すごいんです。殺し方とかリアルでね……」  その言葉に私

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          フェイクが無数の命を救った奇跡の物語

          ⚫︎フェイクが無数の命を救った奇跡の物語 映画『戦火の奇跡』2002年  イタリア作品。1944年ハンガリーからアウシュヴィッツへ移送されるユダヤ人たちをナチや矢十字党の手から守ったジョルジョ・ペルラスカの物語。 イタリアの民間人でありながらスペイン公使と身分を偽って、スペイン公使館に保護されているユダヤ難民を救うために矢十字党やナチス親衛隊と交渉したという奇想天外な実話。 ナチスドイツの親衛隊は戦争末期、戦況悪化から枢軸から離脱しようとするハンガリー政府ホルティ政権を抑え

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          ⚫︎「戦争映画における法と良心の戦い」

          ⚫︎「戦争映画における法と良心の戦い」 ナチスという過去を裁くジレンマ  ナチスの犯罪について、裁かれたのは「ニュルンベルク裁判」とそれに続く「ニュルンベルク継続裁判」、同時にかつてのナチスドイツが占領していた各国における戦犯裁判、そして、アードルフ・アイヒマンを裁いた有名なイスラエルにおける「エルサレム裁判」、その後西ドイツ国内で行われた「アウシュヴィッツ裁判」をはじめとする戦犯裁判である。  その裁判について、絶えず問題となるのは法理の問題であった。  ニュルンベルク

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          ⚫︎戦争犯罪の構造−『リダクテッド・真実の価値』より

           2006年に公開されたブライアン・デ・パルマ監督の『リダクテッド・真実の価値』はイラク戦争を背景に実際に起こった戦争犯罪、マフムーディーヤ虐殺事件(Mahmudiyah rape and killings)をモデルにした映画だ。    事件は2006年に起こった。  イラク人の家に近くの検問所に勤務する第502歩兵連隊の米兵5名が押し入り、14歳の少女を輪姦し、家族もろとも全員殺害したという事件だ。  『リダクテッド・真実の価値』はこの事件をある程度事実に即して描いて、事

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          ⚫︎ハエと絶滅収容所

          ザクセンハウゼン、ダッハウ…… 無言で人の感情を押しもどす冷たく分厚いガス室の扉も、シャワーに見せかけたガスの噴出口も、火をうしなったクレマトリウム(火葬場)の建造物も、いまは透きとおった青い空と、絹のように輝く白い雲の下に、何も言葉を持たない語り部となった。 いのちがまるでないかのような、この語り部は無数の人の命を飲み込んでは沈黙したのだ。 命とはなんだ。 人間とはなんだ。 そのことすら忘れた人びとが産んだ創造物。 それを目の前にして、私は言葉という武器さえ失ってしま

          西部戦線異状なし

          ちょっと、長い引用になるがVOGUEの日本版の新作リメイクの『西部戦線異状なし』の映画評論だ。 ★以下VOUGUEから そんな斜め読みはともかく、戦争映画として訴えるメッセージは、100年前の原作から不変である。タイトルの日本語訳、つまり邦題は今回も『西部戦線異状なし』だが、原題と比較すると少しニュアンスが異なる。ドイツ語では『Im Western nichts Neues』。直訳すれば「西部では何も新しいことは起こっていない」。そして英語では『All Quiet on

          今流行りの中国製トイガンの同等の技術は日本で完成していたという話

          ここ数年、トイガンファンダムで話題の中華式スライドアクション排莢式トイガン。「トリガーブローバック」「フィンガーアクション」「中華排莢式」などなどファンによって呼び名が違う。 レーザー光線発射機能、スポンジ弾の発射機能とかよりも、注目はトリガーを引くだけでスライドが後退してカートリッジを装填排莢されるというギミック。 こうした中国製の遊戯銃(トイガン)がAmazonを中心に販売されていて、トイガンファンの間で人気なのだ。 多くは自動拳銃のモデルなんだけど、引き金を引くだけ

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          『続・名もなく貧しく美しく 父と子』の衝撃

           松山善三監督の名作『名もなく貧しく美しく』は忘れえぬ映画である。  その続編『続・名もなく貧しく美しく 父と子』は鑑賞したいと長年望んできた作品だったが、なかなかその願いが叶わずにきた作品で、知人の映画コレクターのご厚意でようやく鑑賞することができた。実に40年もかかったわけである。  観ることができたものの、前作の印象と全く異なる壮絶な映画であった。  続編を観て、正編をもう一度観ようなどという気持ちにはとてもなれないほど、作風もテーマも違っている。  この映画、前作

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