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子どもを育てる時に知っておきたい事を思い出す:Part1 赤ちゃんの脳って?

1913年に提唱された行動主義の考えでは、赤ちゃんは「白紙の状態」で生まれるため、教育や環境によってどのようにも育てる事ができるのだという。この行動主義を提唱した有名な心理学者のジョン・ワトソンはこのような名言を残している。
「健康な乳児を10人ほど与えてもらい、育児環境を私がいかようにでも決める事ができれば、どの子にでも訓練し、その子の才能、傾向、能力、適性、祖先の人種とはいっさいかかわりなく、医者、弁護士、芸術家、商人に、いや物乞いや泥棒にでもしてみせよう」(多少略)

非常に極端だが、そういう考えが強い影響を持っていた時代がある。行動主義は現代心理学の基礎であり非常に重要であるが、科学が進むにつれ、人類は行動以上のものを研究対象にできるようになった。脳である。脳科学がもてはやされると、人間は“生まれ”が重要であり、遺伝子が全てを決定しているという考えが流行りだした。養育環境や社会がどのようであっても、生まれた時に子どもの能力は決まっていて変えられないという考えが主流となってきたのだ。

結局のところ、当たり前だが子どもの能力の決定は、生まれでもあるし育ちでもある。つまり、遺伝子と出生後の環境との相互作用で決定される。しかし遺伝子と環境がそれぞれどのように作用し、どの程度を決定するのかの全貌はもちろんわかっていない。が、実は分かっていることもたくさんある。

書籍「赤ちゃんの脳と心で何が起こっているの?」by Lisa Eliotから学んだ内容を基に、まずは環境の重要性について少しだけまとめてみる。

脳:人の脳は他の霊長類と比べても極めて複雑だ。妊娠期間中に赤ちゃんの脳内では1分間に50万個以上のニューロンが作られているという。また、ニューロン間の情報伝達をするためのシナプスは毎秒180万個生まれ、生後2年目までシナプス形成は続いていく。これは、反対に考えると重要な脳機能は生後2年までにほぼ形成されているということになる。

我々の脳が適切に機能するには、膨大な量のシナプスとニューロンが適切に接合している必要があるが、胎児や赤ちゃんの脳の接合は未完成状態である。胎児の時代からほぼ成長しきるまでの間、この接合が正しく行われる必要があるが、どうやってニューロンが正確な場所へ軸索と樹状突起を伸ばせているのか、どうやって上手い具合に互いに接合できているのか、視覚、言語、運動その他の機能を管理する脳の回路の配線とスイッチがどうやって適切につなげられているのかが気になる部分なのだ。

この、脳の配線とスイッチの基本的な繋がり方を決めているのは遺伝子である。脳の設計図といっても良い。しかし、この設計図では、「脳全体の正確な配線図を規定するのは全然足りない」そうだ。ここで、人の育ちの部分、つまり環境が重要な決め手となる。

エリオットの分かりやすい言葉を借りれば、「神経の発達における有用性は、電気的な活動によって定義される。活動的なシナプスは電気インパルスを多く受け取り、神経伝達物質をより多く放出するシナプスは、標的を効果的に刺激し、電気的活動の高まりはシナプスを安定されその場所にシナプスを固定する。これに対しそれほど使われないシナプスは自らを安定させられず、結局は退縮する」という(所々省略)。つまり、脳は使っている接合を強め(機能が高まる)、使わない接合は邪魔なので消していく(機能は弱まる)システムがあるということである。使わない機能が消えていくことを“シナプスの刈り込み“というらしいが、この機能は、脳をより無駄なく上手く使えるように環境からの刺激に適切に適応してきた証拠だと考える事ができる。

ダーヴィンの実験の例では、飼われているウサギは野生のウサギに比べて脳が小さかったという。このことを「危険から逃れられ、食物を探す必要がなかったという点で、知能、本能、感覚、自発的運動を働かせる機会がなかった」ために「脳があまり鍛えられず結果的に十分発達しなかった」と結論付けている。
現代の研究でも、「豊かな環境」で育てられたラットの方が、狭くて何もなく、仲間もおらず、社会的刺激もなく、感覚の経験もほとんどできないゲージに入れられた個体より脳が大きく、大脳皮質が厚いことが示されている。また、餌を置いた迷路をクリアする学習速度も早いので頭も良いということになる。ちなみに、「豊かな環境」というのは、広いゲージでたくさんの玩具があり、それを見たり嗅いだりなどの行動が自由にできる環境の事である。自由に探索行動ができるため、自らの選択で能動的に環境からたくさんの刺激を受けられるということがポイントのようだ。
結論としては、「豊かな環境の中で感覚刺激や社会的刺激を与える事が脳の接続を増大させ、その個体の頭を良くする」ということになる。

これは、動物に限った事ではない。人間の赤ちゃんもまた同様…(続く)

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