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蕎麦

【2013年渋谷に住んでいるときのブログから】

実は、蕎麦が好きなんです。

目の前に、蕎麦のほかに、ラーメン、スパゲッティ(パスタじゃなく)、
うどん、しきめん、ほうとう、そうめん、ひやむぎ、冷麺があったとしても
今のワタクシは、間違いなく蕎麦を選びます。

ルカ・ブラージに拳銃をつきつけられても
ワタクシは断固として蕎麦(意味不明な方はゴッドファーザーを観ましょう)。

若いころなら、背脂チャッチャッ系のラーメン、もしくは
焼肉後限定で冷麺を選んでいたかもしれませんが、
オジサンとなった今は、圧倒的に蕎麦なんですね。

実は、子供のころは、好きではありませんでした。

なんか、あの香りが嫌いだった。
ネギの薬味もダメでした。
そして、山葵も。

まあ、お子ちゃまですからね。

それが、いつしか大人の舌になり、蕎麦好きに。

過去に取材2度ほど、蕎麦打ちの取材(上野の藪蕎麦と、蕎麦打ち学校)
にも行き、一時は自分で手打ちしていた時代も
(捏ね鉢も、蕎麦きり包丁も、伸し棒も持ってました)。

初心者のくせに、二八ではなく、生意気にも生粉打ちに
挑戦し、蕎麦がつながらなくて深く悩んだことも……。

それぐらい蕎麦が好きなんです。

ただ、渋谷という街には、あまりイイ蕎麦屋さんがないんですね。
ぶっちゃけると。

デパ上(デパートの上層階)に、有名店の支店もあるんですが
全くダメ(香りも飛んでいて、あれは乾燥蕎麦使用だと思います)。

唯一、手打ちで、蕎麦らしい蕎麦ば食せるのが
道玄坂小路にある『F田屋』さん。

ビルの2Fの店舗ですが、自前ビルなのでしょうね、
強気の営業で日曜日はお休み。営業時間も短いのです。

昼は15時30分ごろ、までの営業。

ワタクシは、ある狙いがあって、14時過ぎぐらいに
行くことが多いのです。

注文するのは「せいろ2枚、重ねて」
もしくは「天せいろの大、あとビール1本」。

いつも同じ注文ですので、裏では「重ねてサン」とか
「あとビーさん」とか言われているかもしれません。

他のものをオーダーする「えっ! 本当にそれでいいんですか!」
と確認されるかもしれません。

店内では、ささやくような声質、ウィスパーボイスのおかみさんが、
愛想よく動き回っております。(追記・お亡くなりになられました。合掌)

本日の注文は後者の「あとビー」のほう。

F田屋天せいろ大

(いつもの)大テーブルの片隅に座り、
ビールを飲んでいると、サービスのおつまみ(キンピラ)が
出て、それを肴に、グぃ、グぃ。

3杯ぐらいを胃袋に落としたところで、
おまちかねの大天せいろが登場です。

同店のなかでもわりと高額な商品(大盛りだと1600円かな?)(追記値上がりしてます)
になりますので、周囲の視線を感じますね。

「天せいろ大、お待ちどうさまでしたぁ~」という声が
店内に響くと、

(おお、あいつ天せいろだよ、しかも大だよ! すげぇ!)
と思われているんではないか、と。

(おれもいつかは天せいろ大だ!)と決心しちゃう人が
いるんではないか、と。

(ちくしょう、あのデブ、エビの天せいろかよ。
おれは搔き揚げ天せいろなのに!)と、
恨む人もいるんではないのか、と…。

そういった周囲の様々な羨望、嫉妬といった思惑を感じながら、
薬味をポンと蕎麦ちょこに入れて、
まずは、ズズズッとたぐり喰い。

みずみずしさがあり、唇にツルツンとあたる感じが心地いい。

蕎麦の香りが鼻腔に残るうちに、大根おろしをポチョンと
天つゆに入れて、まずは、ししとうの天麩羅を。

さらに、ナス天。

かぼちゃ天でビールをグぃ、グぃ。

ああっ、と人心地ついたところで、さらに蕎麦をズズッ。

そして、このあたりで、大いなる決断、
究極の選択をする段階がくるわけです。

そう、今日はエビ天からいくのか、イカ天に喰らいつくのか
という大いなる問題。

で、今日はエビ天からいく気分となりました。

長いエビを天つゆにつけて、ハグり。
エビの胸元ぐらいまではを、ハグり。

んで、グぃ。
んで、ズズッ、んで、グぃ、ハグ。

エビのお腹あたりまで終了段階で、イカ天へ。

唯一、同店で不満なのは、イカ天が肉厚ゆえにやや硬いこと。
一発で噛みきれず、ホグホグとなるんです。
すると、衣がズルんとなることがある。

これ、下処理で隠し包丁入れて欲しいんだよなぁ。

いつも、問題を解決する手段、というか口段としては
そのまますべてを口で受け入れる。

噛みきれないのなら、一思いに口に入れてやる! と
心のなかで叫びならがら食しています。

そう、何事も何もかも受け入れる気持ちになれば、
悩みなんてないわけです。

こうしてイカ天問題が解決したあと、
本格的に蕎麦に取り組み、ズズズズズズズズッ。

残りのビールとエビ天の量を考え、グぃ、ハグ、ズズッ。

ラストはエビ天しっぽ部の身を歯で噛み出したのと
蕎麦で〆。

ああ、至福。

ここで終了と思いきや、オジサンは
おもむろに画像左上の湯桶に手を伸ばします。

そう、ここで14時時過ぎゆえの、蕎麦湯タイムとなるわけです。
11時30分の開店直後にはない、濃厚さアリ。

天せいろの余韻を楽しみならが、
濃厚なのを、ゴクゴク。

蕎麦湯を堪能してこそ、蕎麦食いだなぁ、ゴクゴク。

ああ、日本人に生まれてよかった、ゴクゴク。

〆て2200円の快楽でございました。


ちなみに『美味しい』って表現を使わないのが
基本なんです。メシ原稿は。

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