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散財記⑧ LENOのレザートートバッグ

色々なモノを買ってきた。「一生モノ」と思って買ったモノもあれば、衝動買いしたモノもある。そんな愛すべきモノたちを紹介する散財記。9回目はLENOのレザートートバッグだ。

久しぶりに衝動買いをした。

私は関東の一角の地方都市で単身赴任をしている。平日は仕事が忙しく、休日もほとんどない。少なくとも転勤してからは数日しか休んでいない。「数日も休んでいるのか」と驚いた向きは、ぜひ我が業界に転職してほしい。きっと刺激に満ちた毎日が待っていることだろう。

そんな生活が続いていたせいか、すっかり風邪をひいてしまった。市販薬で騙し騙し過ごしていたが、限界に達し、医者にかかった。診断は副鼻腔炎。普段ならイチコロで撃退できる病原菌なのだが、やはり体が疲れているようだ。診断書をもとに薬物を購入し、トボトボと職場に戻った。簡単な体調不良くらいでは休めないお茶目な会社なのだ。古き良き昭和レトロ。月月火水木金金。

薬物はすぐに効用を発揮したのだが、日々の気分転換が一切できなくなった。深夜に仕事を終えて帰宅した後のジョギングとアルコール摂取がほとんど唯一の息抜きだったのだが、どちらも薬物とは相性が悪い。アルコールと激しい運動を控えるのは、風治療の鉄則である。そんな訳でボルダリングもお預けとなった。

仕事以外にやることがない。使うのは薬物代だけ。そんな日常で溜まりに溜まったリビドーは物欲に姿を変え、私の中で暴れ回った。折しも、某ネット販売大手ではプライムセールと銘打って、国内のボーナス消費を一手に引き受けようとしていた。何を買って、何を買わないのか。プロ散財家にとっては、真剣勝負の場である。

アンカーのバッテリー兼充電器にするか、それともロジクールのマウスか。どちらも仕事の効率を上げてくれそうな品だが、果たしてどのくらいの費用対効果が得られるのか。

悩みに悩んだ結果、私はAmazonともprimeともSALEとも何の関係もないお店で、トートバッグを買った。

なぜって? 欲しかったから。以上、QED。

カバンなら山ほど持っている。仕事用カバンだけでも、バックパックやらショルダーバッグやらそれこそ売るほど所有している。現在、メインで使っているのはポーターのトートバッグだ。5年ほど前に購入したのだが、紆余曲折を経て、再登板となった。一般的なトートバッグはポケットがあまりないデザインが多いが、こちらはめちゃくちゃポケットがある。ありすぎて、どこに何を入れたか忘れてしまう。単に何も考えずに手が届く範囲にモノを突っ込んでいるだけだからかもしれない。

しばらく前までは、マムートのセオントランスポーター25を使っていた。職場の近くにボルダリングジムがあり、着替えとシューズを常に携帯する必要があったからだ。このバックパックはビジネス用のスペースとクライミング用のスペースに分かれており、都市型クライマーにはピッタリの作りだった。容量も25㍑あり、余裕で2泊はできるくらいの荷物を詰め込むことができた。

幸い、今の職場のポジションでは、そんなにたくさんの荷物を持ち歩く必要がない。何なら手ぶらでも問題がない。これまでは、パソコンやらカメラやらノートやらICレコーダーやら色々なモノと一緒に行動していたが、最近はスマホとキーボードくらいしか持って行くモノがない。キーボードはHHKBを買って以来、これしか体が受け付けなくなってしまったのでやむを得ず持ち歩いている。

持ち物も減ったが、服装も相当カジュアルになった。最近ではスーツどころかワイシャツさえ着ていない。申し訳程度にジャケットは来ているが、もっぱらTシャツとチノパン、それにスニーカーが正装になってしまった。服装だけ見れば、スタートアップ企業勤務と言っても通じるだろう。あるいは、体の良い失業者か。

昔は英国紳士に憧れ、腰がギュッと絞られた英国式のスーツにジョン・ロブを合わせていたものだが、今ではアンコンのジャケットとヴァンズのスリッポンである。伊太利亜の初老男性というほどの色気はないが、人間変われば変わるものだ。ファッションでもポリティクスでも何でもそうだが、あまり価値観を固定化しないほうが楽しく生きられると思う。

そんなお気楽なスタイルになってしまったので、カバンもテキトーなモノを使うようになった。今の4番ファーストは、「本屋さんのトートバッグ」である。

10年ほど前に、当時住んでいた西荻窪の商店街にあった書店で購入した。本を入れるためのモノなので非常に頑丈で、全く壊れる気配がない。現在でも、スーパーへの買い出しから溜まった新聞の一時保存から休日の外出から1泊2日の旅行まで、ほぼ日常のあらゆることをこのトートでこなしている。

値段は全く覚えていないが、調べてみると同じ製品がセールで571円だった。10年使っても年間60円もしない。物凄いコスパの良さである。真の意味で「一生モノ」というのは、案外こういうモノなのかもしれない。


このトートに全く不満はないのだが、10年も使っていると、だんだんと汚れ、ボロボロになってきた。機能的には問題ないし、そもそもラグジュアリーなモノではないので良いのだが、トートバッグと言うよりも頭陀袋に近い。それはそれで味があるのだが、本体もボロっちい格好をしないとどうにもハマらない。パタゴニアのTシャツにバギーショーツ(5㌅)にルナサンダルしか合わない。そうなると、もう少しシックなトートが欲しくなるのが人のsagaである。

そんな訳で春先くらいからトートバッグの物色を始めた。トートの本家と言えばエルエルビーンである。たくさん入るし、丈夫だし、何より安い。人生で何度か買うタイミングはあったのだが、なぜか購入に踏み切れなかった。コスパ最強の本屋さんトートを上回る魅力が見つけにくかったと言うのもある。持ち手に色が付いているのも若干気になったし。もっと早く買ってガンガン使ってへたらせておけばよかったなと思うモノの一つであるが、今更そんなことを言っても仕方ない。

そこで自分の中でいくつか条件を決めた。

① シンプルであること
② 頑丈であること
③ 長く使えること
④ 持っていて気分が上がること

トートバッグに限らず、大体の買い物はこの条件を満たせば、安心して使える。逆に言うと、どれかが不満だと買った当初は良くてもだんだんと使わなくなってしまう。
「何を当たり前のことを」と言う話ではあるのだが、20年以上に及ぶ散財の結果たどり着いた真実である。「どんな剃刀にも哲学がある」という表現があるが、同様にどんな買い物にも哲学があるのだ。

その視点でトートを探し続け、ようやく見つけたのが、LENOのレザートートバッグ(エクストララージ)である。色は白にした。真っ白な革のトートである。

シンプルと言えば、これほどシンプルなモノもない。ポケットすら付いていない。単なる袋である。前述の通り、特に持ち歩くモノもないのだが、肉厚なレザーがしっかりと縫製されており、重いモノを入れても問題なさそうだ。

説明によると、このレザーはウォッシャブルで、汚れたらジャブジャブ洗える。手洗いが推奨だが、洗濯機でも問題無いそうだ。革製品について言えば、汚れたら汚れたでそれも味だと思っているが、いざとなれば洗えるのは心強い。手触りもよく、一目で気に入ってしまった。シンプルで長く使えるモノが一番良い。

前述の通り、ポケットも何もないただの袋なのでモノを運ぶ時は、パタゴニアのポーチを使うことにした。ブラックホールの6㍑で、ボルダリングのシューズなどを入れるのに使ってきた。それをそのまま仕事用の小分けポーチにした。こちらもシンプルで何も考えずにモノを放り込めるから気に入っている。

悩ましいのが、キーボードの持ち運びだ。HHKBを使っているのだが、現状適当なサイズのケースが無い。HHKBユーザーならわかると思うが、単体では分厚すぎてタイピングに支障が出るので、木製のパームレストも一緒に持ち歩いている。この両者をそのままバッグに放り込むのはいささか怖い。頑丈だとは思うが、キーボード用のケースを新たに購入しなければならないかもしれない。

物欲はまた新たな物欲を連れてくるのだ。


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