散財記⑫ ジョンストンズの大判カシミヤストール
色々なモノを買ってきた。「一生モノ」と思って買ったモノもあれば、衝動買いしたモノもある。そんな愛すべきモノたちを紹介する散財記。12回目は「ジョンストンズの大判カシミヤストール」だ。
昔から冬が好きである。
「なぜか」と人に問われると、「重ね着ができるから」と答えている。
夏は夏の良さがあるのだが、ことファッションとかオシャレとかいう観点に立つと、極めて面白くない時期だ。暑いので、トップスをTシャツにするか、シャツにするか、はたまたアロハにするか、くらいの選択肢しかない。ボトムスは、パタゴニアのバギーショーツ、足元はルナサンダルと決めているので、ほとんど工夫のしようがない。せいぜい、ショーツの色で悩むくらいだ。
敬愛する島地勝彦的に言えば「ダンディは男のやせ我慢だ」ということになるのだろうが、「命に関わる暑さ」(ⓒNHK)が頻発する昨今では、個人の我慢の限界を超えている。そもそも、何を着ても汗をダラダラかきながらでは、形無しである。
時計とかアクセとかに凝ってみても、結局暑過ぎて色々どうでも良くなる。「やっぱ時計は革バンドだろー」とかイキって夏も革バンドを付けて、高級ベルト(1本300㌦~)を何本もダメにした。アホである。
その点、冬は良い。重ね着(レイヤード)ができるため、着用できるアイテム数が夏とは段違いである。
夏は①トップス②ボトムス(バギーショーツ)③シューズ(ルナサンダル)④キャップ⑤アイウェア⑥アクセサリー(時計含む)だとすれば、冬は、①インナー②アウター③巻物④キャップ⑤アクセ⑥ボトムス⑦ソックス⑧アイウェア⑨手袋――と、単純計算で1・5倍。インナーも最低でも下着、シャツ、セーターの3点が必要になるので、実際はさらに多くなる。
レイヤードができるということは、服装の順列組み合わせが増えるということで、毎朝楽しい悩みが増えるということでもある。
これまでは、①トップスに重点を置いて投資してきたのだが、近年力を入れているのが、③巻物である。
ちょっと思い出しただけでも、カシミヤマフラー×2、ウールマフラー×2、ウールストール×1、ウールスヌード×1、アフガンストール×2、バンダナ×1……と結構な数を所有している。これでもかなり整理したのだが、それでも捨てきれずに残っている。
中でも不動のエースの座を確立しているのが、ジョストンズの大判ストールだ。正直、ストールとマフラーの差がいまいち分からないのだが、ここでは幅広をストール、幅狭をマフラーと定義したい。マフラーって細いもんね。
さて、ジョンストンズのカシミヤストールである。購入したのは今から7~8年ほど前のこと。当時、札幌で暮らしており、初年度の冬に耐えかねて購入したと記憶している。
ジョンストンズについては、毎年女性誌を中心に特集が組まれているので、多くは語らない。正式には JOHESTIONS OF ELGAN。1797年(寛政7年)創業のスコットランドのブランドである。日本では、松平定信が寛政の改革で贅沢を取り締まっている頃だ。親近感が湧くかと思ったが、別にそんなこともない。
ジョンストンズが家名で、エルガンが地名。どことなく、ナザレのイエスとか、大岡越前守とか、その手の偉人を想起させる。エルガンを地図で探すと、グレートブリテン島のめっちゃ北に位置している。寒そう。巻物産業が発展するだろうなと思わせるロケーションである。
私が購入したストールは「大判」と銘打つだけあって、190㌢×70㌢と極めて大きい。羽織ると、肩から背中まですっぽりと収まる。この大きさを利用して、当時はまだ3歳くらいだった長女を丸ごとくるんで抱っこして外に連れ出したものである。可愛かったなぁ。今も可愛いけれど、抱っこはもうできないし、させてもくれない。
ジョンストンズさんの巻物は、様々なタータンチェックが楽しめるのが特徴だ。有名なのは、ロイヤルスチュワートだろう。赤をベースに青や緑、黄色に白と、様々なカラーが織りなすチェック柄が美しく、我が国でも冬になると街にあふれる柄である。高校生など若い年代がつけることが多いが、シックな服装をした高齢者が巻いている姿も、なかなかオシャレである。「ロイヤル」で「スチュワート」なので、女王陛下がお召しになるチェックとしても知られる。
余談だが、「スチュワート」はかつてあったスチュワート朝のことである。アン王女で途絶えたが、今もチェック柄にその名前をとどめている。日本でも、徳川家斉が好んで着た織物を「お召し物」と呼んだのが言葉として残っているが、それと似たような感じだろうか。同じ立憲君主制の島国同士、どこか感覚が近いのかもしれない。
他にも、名誉革命時の軍警察隊が着用したという「ブラックウォッチ」(緑×黒×紺)とか、スコットランドの貴族・ゴードン家のタータン「ドレスゴードン」(白×紺×緑×黄色)とか、由緒正しい柄がそろっている。余談だが、タータンチェックは、クランと呼ばれる氏族に由来している
日本の家紋も、「十六紋菊」(皇室)とか「三つ葉葵」(徳川家)とか「武田菱」(武田家)とか色々あるが、あれも元をたどれば同族が身に着けたものなので、タータンチェックと同じ発想といえる。ちなみに、「こち亀」の両津家の家紋は「タイガー戦車」。自由すぎる。
さて、そのあまたある柄の中から、私は「ブラックスチュワート」を選択した。前述の「ロイヤルスチュワート」の赤を黒に変えた柄である。詳細は割愛するが、こちらもスチュワート家に由来している。
ロイヤルも試してみたのだが、初老男性にはいささか派手すぎた。なくなった祖父は、ハンチングにロイヤルスチュワート柄の巻物で決めていたが、私も喜寿を超えるくらいになったら似合うようになるかもしれない。
ビジネス用にネイビーやグレー、ブラックなどの単色も検討したが、大判の大きさだといささか単調すぎた。軍隊由来のブラックウォッチと最後まで迷ったが、ただでさえダークカラーが増える冬場なので、襟元は鮮やかな色がよかろうということで、ブラックスチュワートに決めた。(その後、使いやすさを重視して、グレーのマフラーも購入したのだが、それは別の話である)
以来、冬になるとずっと愛用している。ファッションアイテムとして優れていることはもちろんだが、素材でみても最高級のカシミヤなので、どう使っても暖かい。この安心感はもはや道具(ギア)に近い。さすが、寒い土地で生まれたアイテムだと感心する。
外に出るときはもちろん、室内でもちょっと肌寒いときなどに羽織ったり、ひざ掛けとして使用したりしている。長男のサッカー応援の時などは、椅子の下に敷いて足をくるんだり、長女や次女をくるんだりと大活躍である。ソファに放り投げておいて、昼寝時のブランケットにも使うこともある。何なら、壁にハンガーでかけておくだけで、ちょっと空間が豪華になる。まさに万能アイテムである。
機能美を追求した結果、モノとしてもめっちゃおしゃれになる。ジョンストンズのストールは、そんな基本を思い出させてくれる。
ああ、冬が待ち遠しい。寒くなったらなったで、ぶつぶつ言うのだろうけれど。