「週刊金曜日」(2023年3月17日号)に黒川創『彼女のことを知っている』(新潮社)の書評を書きました。
この小説は二つの語りにくさを引き受けながら書かれています。二つとはつまり、性と革命。
その時代によって価値観の変わる性を語ることの難しさ。いつの間にか始まり、何かを成し遂げたかどうか定かでない過去の革命について書くことの困難。そのなかにとどまりながら、かつて起こった、そして、確かにあのときみずからもそこに巻き込まれた、あの性革命とはいったいなんだったのかを物語のなかで考えようとするのが黒川創『彼女のことを知っている』という作品です。
京都の喫茶店でフリーセックスを体現していたヒッピーたちと過ごした60年代の日々。コミュニケーションの変容に伴ってがらりと変わった現在の性の価値観への不安。#me too運動に対してNOを唱えたフランスの女優、カトリーヌ・ドヌーヴのこと。
かつて/いま、起こった/起きている性革命のなかにいる人々を描きながら、そこで揺れ動いているものは何かをそっと掴もうとするのが、この作品の大きな魅力だと僕は思います。
黒川さんはもう一冊、図書出版みぎわから『世界を文学でどう描けるか』という本を先日出しましたね。この作品は黒川さんがサハリンを旅しながら、辺境として位置付けられてしまうこの土地にある〈世界〉とは何かを考えていて、そのことと、ゲーテの世界文学論への違和を接続されている、こう言っていいのか心許ないですが、ある種の〈世界〉論になっています。素晴らしい作品ですので、ぜひお読みください。
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