旅の話.68 ペルージャ③
1999-2000シーズンのセリエA開幕戦
チケットを買いに、バスにのって競技場のレナト・クーリへ行った。
値段は対戦相手によって変わる。
今回の相手はパルマだから、高い方で35,000リラ(2100円程)だった。
やはり、この時期を狙ってペルージャに来る日本人旅行者は多かった。
僕の泊まっている安宿にも、日に日に増えて行った。
夜、景色のいいバルコニーに集まって、それぞれの旅の話をしたり聞いたりするのが楽しかった。他の国の旅人から「日本人サロン」と呼ばれていた。
誰かから聞いた、イタリアならではの面白バックパッカーの話が印象深い。
その人はブルジョワさんと呼ばれていた。
やたら綺麗な身なりをしていて、大きなリュックとバイオリンを持って旅をしていたそうだ。
自分の愛用している、そのバイオリンを作った職人に会いたくて工房を訪ねに来たそうだが、残念ながら移転していて会えなかったそうだ。
洗濯が出来ないから、服は汚れたら捨てて新しく買い、自炊が出来ないから、食事は毎回レストランでローストチキンなのだだそうだ。
面白い。会ってみたかった。
中田さん
ある日、夕食を作って食べ終えた頃、
「広場に中田が来てる!!」
と、教えてもらい、急いで食器を洗って向かった。
広場の噴水の前のホールのような建物の中で、激励会のような催しが開かれていた。そんなに広くはない、小学校の体育館の半分程の室内に、選手や関係者が集まっていた。なぜか僕らもすんなり入れた。
選手が1人ずつコールされ、オーナーがユニホームを手渡していた。
残念ながら中田の番は見逃したけど、ラパイッチが呼ばれた時は、ものすごい迫力の「ミラン!」コールが起きた。ミラン・ラパイッチはチームのエースだ。しかし、後で教えてもらった話だと、中田の時の方がすごかったそうだ。めちゃめちゃ期待されている証だ。
激励会が終わり、人が動き出した。
イタリアらしい、いい感じに雑な終わり方で、なんか選手に近寄って話しかけても大丈夫っぽい。チャンスと思い、中田の前まで行って挨拶をした。
実際に目の前で見ると、案外小柄だが引き締まった猫科の猛獣、ヒョウみたいな印象だった。
週末の開幕戦が、さらに楽しみになった。
そして試合当日
1999年8月29日の日曜日だった。
朝から天気が悪かったが、15時のキックオフ直前には大雨だった。
ペルージャのエンブレムの入った赤いレインコートを買って着たけど、豪雨過ぎて意味がなかった。パンツまでびしょびしょだ。
同じ安宿のメンバーで集まっていると、近郊から来た日本人達も自然と集まって来て、即席の応援団みたいになった。
ゴール裏中央のやや上に陣取った。
パルマの選手が先にウォーミングアップにピッチに入って来た。
オーロラビジョンの様な物は無いので、誰が誰だか分からない。
クレスポや、ディノ・バッジオはどれだろうと探った。
オルテガだけは小さいのですぐに判った。
ペルージャの選手が現れると、ものすごい大歓声だった。
試合が始まってすぐ、誰かが発炎筒を投げ込んだ。
大雨だけど無風で煙が流れない。しばらく視界は真っ白。
ゴール裏からピッチが全く見えなくなってしまった。
迷惑。
ドシャ降りの雨の中で、選手もやり難そうだった。
あの中田も滑ってコケた。
0-0で迎えた後半。先制点はペルージャのキャプテン、オリーベが決めた。
しかし追いつかれ、結局1-1で引き分けた。
つづく