変化 / 最後の東京帰省日記 ⑨
前回の続き
夕暮れ時に、ホテルへ到着した。スイカの無事を確認して、冷蔵庫に収める。今日はこれから、新丸子へ向かう。この場所は、思い入れのある場所である。東京や神奈川や地元に対して、故郷と思う気持ちや愛着は一切ないが、新丸子だけは特別だ。初めて一人暮らしをした場所である。楽しい時も辛い時もいつも、自分にとって新丸子は、帰るべき場所、心が落ち着く場所として、存在していた。
新丸子についた時には、もう辺りはだいぶ暗くなっていた。まずは駅から歩いて数分のところにある「丸子温泉」に向かう。なんてことない小さな大衆銭湯だが、地下から組み上げている本物の温泉水を使っている。黒飴のような色をした温泉水で、なかなか珍しい。新丸子に住んでいた頃、しばしばこの銭湯に通っては、湯船に浸かりぼーっとしていた。湯船から、洗い場にいる裸のおじさんたちを眺めながら、「纏ってるものを脱いでしまえば、人間誰しも同じ動物だよな」などと思っていた。
温泉に浸かって、冷水シャワーを浴びる。3回繰り返して、満足したところで浴場を出た。体を拭いて、目についた体重計に乗る。最近飲み会が続いていたからか、少し太った。長崎に移住してから、食事は1日2食だし、毎日斜面地の階段の上り下りしているが、最近それでも太るようになってきた。30歳を超えて、体の変化を少しずつ感じている。飲み過ぎには注意だなと思いつつも、今日はこれから、楽しみにしていた行きつけの飲み屋に向かう。
いつも通り、飲み屋に向かう前に、駅近の書店で本を買った。購入したのは芥川賞受賞作の「推し、燃ゆ」。かつて自分も人を推していたことがあるし、最近はYoutuberの端くれとして人から推されることもある。「推す」とは何かを考えてみたくて、本書を手に取った。今日は、いつもの店で、これを読みながら飲む。
次回に続く