食えない音楽家。五枚の源泉徴収票の先の、体当たりの自由まで。
わたしの机には、5つの会社から届いた源泉徴収票が揺らめいていた。
さて、さて。
これは昨年、5つの会社で働かせてもらっていたという事を意味している。当たり前だけれど。(※これは2016年初頭の執筆記事。)
週7日なにかしら働いて、夜は演奏して、
帰宅するとレッスンの準備をして、
ひと月10万円程度。
「前田サンって何が趣味なのー?」
「音楽をやっています」
「あら、食べられないからここで働いてるのね。大変だものね。」
「………………………………………………う。」
音楽レーベルを始めて、ひとつのタイトルをリリースしようとしたら、最初100万単位のおかねが必要だった。(もちろん、人にもよると思います。)
放課後の子供たちが遊び回る職場の、ロッカーのーの片隅で、悔しくて身震いした。
コンビニエンスストアで「副業」の本を見かけたので、なけなしのお金で友達と購入した。
「○ックオフの全商品を買い取って転売したら」「ふるさと納税で勝つコツ」「流木ハンターになろう」。
どうしたものかなぁ・・・。
転機は、ベルリン旅行でやってきた。
料理人とミュージシャンのカップル、ゲイのカップル、そして日本人の女の子の暮らす家で寝泊まりをさせてもらった。
このラインナップだけで、もうワクワクだ。
ベルリンは、貧乏だけれど、クリエイティブだった。
□毎晩のように近所で繰り広げられるライブを見に行ったり(どれもビール代だけで無料だった。)
□アウトバーンという高速道路を自転車で走るイベントに参加したり(無料。)
□一流の演奏をするベルリン・フィルを見たり(昼間は無料だった。)
公園で泣いている人がいても、それすらも"個性"という中では、当たり前の光景だった。
そのとき、わたしは、会社員でも、先生でもない。
音楽をやっているのだから、「ミュージシャンです」。それでよかった。許された気がした。
シンプル。
ひとつの都市に数日間滞在したくらいで、その街のなにが解るってわけでもない。
でも、影響を受けるのは許してくれるかしら?
生活の為の仕事は、全部辞めよう。
少なくとも、レーベルの仕事ですといえるものだけで食っていこうと、胸の中で決意した。
ピンと来ないものは直感に従う。
きっと、嫌いなものを切り捨てていけば、おのずと好きなものしか残らない。
そして、もっともっとすぐそこにある、周りのお友達や、家族や、大好きな音楽仲間との時間を大切にしていきたいと思っていた。
演奏しよう!と意気込んで行ったベルリンだが、結果的にはしなかった。
数ヶ月後。
「どこでも予定は空いています!」といえるようになった事で、本当に徐々にだけれど、以前よりも仕事が入るようになっていった。
平日の昼間には、リサーチの為によく図書館に居る。
どの本を選ぶかは、無限に選択肢が広がっていた。
だけれど、どの本を選ぶか=これからどうするかに繋がっていると思うと、その重さに足がすくんだ。
周りの人の手元を見渡してみた。
視界の中にはいつも、旅行雑誌が写った。
旅行・・世界一周・・・旅のガイド。
「旅行コンテンツだ!そうだ、旅に似合う音楽だ!」
上を見ればキリがない。
誰かみたいになろうとしても、全然なれない。
ロッカーのーの片隅で、悔しくて身震いしていた "食えない音楽家" が、
精一杯、今日もつくり続けるだけなのだ。
(ぶん・写真/studio iotal label 代表・前田紗希)
[Twitter]https://twitter.com/nagareruiota
◆本記事はこちら!
□■□■□■□■□■
studio iota labelの、新コンテンツ!
「ガイドブックには載ってない観光ガイド!」名前は【イオタビ】╭( ・ㅂ・)وどうぞよろしくお願いします!
流れるイオタ「robot girl」【Official Music Video】/studio iota label シネマティックジャズ
【Facebookページ】https://web.facebook.com/iotabi
【ウェブサイト】http://www.iotabi.com/
【note】https://note.mu/nagareruiota