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坂田昌子さんと取り組む、市民主体の生物多様性アセスメント
郡上を中心に、暮らしのフィールドを遊びながら守り、次世代へいのちよろこぶ源流域を繋いでいく長良川カンパニー。私達がとても大切にしている場所の一つに、「水沢上の森」(郡上市明宝)があります。
長良川の支流 吉田川の源流域にあたる水沢上の森は、源流案内人の由留木さんがとても大切にしてきた場所の一つですが、日本各地で土中環境再生に取り組まれている高田さん(地球守)と水沢上の森を巡るなかで、「水沢上の森も少しずつ乾いてきている」ということに気が付きました。
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水上側に皆伐跡地がいくつかあることがわかりました。
さらに株式会社コイシ様にご協力いただき、周辺一体をドローンに乗せたセンサーで点群モデル化していくと、皆伐跡地は水沢上の森の地下水や表面水に何らか影響していることが考えられます。水沢上の森をこれからも守っていくためには、皆伐跡地を放っておくのではなく、主体的に手を入れていくことが必要だと考え、調査を開始しました。
皆伐跡地は、森林のまとまった面積を一斉に伐採することにより、地表面の植物が減少し、急激に表土が露出します。また皆伐作業のために大型の重機が林床を往来することで、土が押し固められ、浸透能が減少すると考えられています。長良川の透明度の高い水や、豪雨時に治水力の高い森を保つ森に向けて、自分たちで土中環境を再生していくにあたって、生物多様性ガイドの坂田昌子さんに来ていただき、現地の生物多様性についての調査や協議を行ないました。
01|坂田昌子さんとの出会い
長良川カンパニーと坂田昌子さんとの出会いは、2023年2月11日に千葉市文化センターにて開催された、「古くて新しい社会システム コモンズに学ぶ、これからの地域再生」(2023年2月11日@千葉市文化センター)にて、坂田さんと長良川カンパニー岡野がともに登壇するきっかけから始まりました。
郡上のリアルな自然環境をフィールドとして日々暮らしの中で挑戦を続ける私達にとって、坂田昌子さんはシンポジウムの事前打合せ時の言葉のひとつひとつからもとても印象的でした。特にコモンズ、そして内なる自然に対しての坂田さんの言葉は私達に大きく響くものでした。
(内なる自然に対する坂田さんの言葉について詳しくは玉利康延さんのWEBにて)https://etupirka.studio.site/blog/sakata_commons?fbclid=IwAR0UaBKbaQtrrEaJm_rBANRxH6DiFCKBLIxmf93reiPVFqAKFzic1RtO6Mw)
今回の水沢上の森皆伐跡地に対する調査は、そんな際立って幅広い知見とフィールド経験をもつ坂田さんとの偶然の出会いに始まり、郡上での植生調査と生物多様性アセスメントについてご相談をしたのがきっかけとなりました。
02|水沢上の森を歩く、生物多様性調査
2023年8月30日-8月31日の2日間、坂田さんに郡上に来ていただき、長良川カンパニーのメンバーとともに水沢上の森上流の皆伐跡地について植生調査を行ないました。
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当日は、皆伐跡地の草をかき分けながら、残した方が良い希少種の植生などについて、くい打ちやマーキングを行なっていきました。
水沢上の森直上の皆伐跡地は、およそ1.2haあり、傾斜は比較的緩やかです。また、斜面に向かって中央と左側には水ミチがあります。
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敷地内を縦横無尽に観察し、これらは、皆伐跡地に今後取り組む土中環境改善の際に目印となるとともに、今後の継続的なアセスメントでの目印ともなります。一歩一歩進むごとに様々な発見を共有いただき、少しずつ水沢上の森皆伐跡地における生物の状況が見えてきました。
03|見えてきたフィールドでの生物多様性との向き合い方
世界スケールではTNFDをはじめ、注目度が上昇している”生物多様性(Bio-diversity)”ですが、「土の中から表面まで、全て正確に調査しようとするならばどこまでも細かく調査できてしまう」と言われています。1㎡メッシュで区切ったとしても、1.2haある水沢上の森皆伐跡地では、12,000個のメッシュにおいて地表面と地中で生きる生物を観察する必要があるように思ってしまいます。
「明治神宮では50㎝メッシュに切って、細かく調査した。水沢上の森ではどこまでやる?」
そう問いかけをくださる坂田さんと議論を繰り返し、どこまででも時間もお金もかけることができてしまう生物多様性の調査において、フィールドでの限られた人材や時間で、現実的に生物多様性に対する探求を進め土中環境を再生していく方法を模索しました。
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最初に取り掛かる際に重要な作業として、
①土中環境再生の施業に入る前の希少種(植物)の状態を調査する
②全体の雑感(現状の状態)を記録する
③この土地の傾向を表す植物に絞り、観測パラメーターとし変化を調査する
これらのステップを踏んで全体像をマクロとミクロの両面から理解を高めていくことで、12,000個の1㎡メッシュ全てに詳細な調査をせずとも、フィールドにおいて生物多様性と向き合うために必要となる情報を得ることができると少しずつわかってきました。
04|源流域から取り組む市民主体の生物多様性アセスメント
様々な手法での生物多様性の調査に取り組んできた坂田さんは、このような調査を「市民アセスメント・・・生物多様性の市民戦略」と言います。
市民が自分たちの目で生物多様性についての見方を知り関わることで、その地域毎に市民が主体となって外的自然を守っていくことができます。
長良川カンパニーはこれからの水沢上の森とその皆伐跡地を市民がアセスメントができるためのフィールドにしていきます。