アマビエ様をそっと撫でた
大学の最寄駅、喫煙者しか知らないひっそりとしたスペース。
階段を降り、曲がってすぐのところにある喫煙所。
黙って吸えと書かれた張り紙に添えられたアマビエ様。
信仰の自由に担保されたフリー素材と化したアマビエ様はヤニにまみれて黒ずんでいる。
ぼけーっと気つけの一本を吸いながらそんな姿を見つめる。
来週末に予定されているゼミの飲み会はやるのかやらないのか二転三転し、企画を担当している自分からすればいい加減にしてくれと思いつつ、何とかならんかと、ふと撫でてしまった。
親指はすっかり汚れたし、それでどうこうなるわけでもない。
そんなことは分かってる。分かっているとも。
それでもこう、縋りたいものがあれば縋ってしまうのは間違いなく、藁をも掴むなんとやらを体現してしまった。
いのちのかがやきくん、もといミャクミャク、あるいはミャクミャク様へと昇華しているそれも、最初はフランクだったマスコットがいつの間にか「様」がつく異形の存在として浸透しているあたりが面白い。
ブッダやイエスが休暇を日本で過ごす作品は当たり前のように認められているし、英霊は女体化されて戦うものだってある。
自分の先祖が爆乳の槍使いとして登場し、CVが水樹奈々になったことがニュースになった日は、オタクと思われている自分に親戚からのLINEが止まらなかった。
「これどういうこと!?」
知らんがな。ほんで適当に強いのなんやねんFGO
海外ではあらゆるものが擬人化されることを「Japanimation Beam」と呼んでいるらしい。
そりゃそうだ。
戦艦も偉人も仏も神も、あるいはそこらの動物までもが人間にされてしまうおそらく世界で最もあらゆる信仰に無関心でそれらを蹂躙することに対して寛大な国、日本。
信仰の自由が保障されているし、何を信じたっていい。そんなおおらかな国民性だからこそ、突然現れるものに対してどうも身構えてしまい、結果的に受け入れている気がする。
アマビエ様だって突然疫病をなんとかしてください!と人から頼まれることになってここ最近やっと落ち着いたと思ったらまた崇められて大変に違いない。
信仰の自由と書いているけど、自分もまぁ仏教徒ではある。葬式もお経あげられるだろうし。
それでも初詣から始まりお盆を経て、ハロウィンにクリスマスなどなどをごった煮で楽しんでいる。
神頼みで出てくるのはいわゆる仏ではなく神だし、それもアジア的な神なのかヨーロッパ的な神なのかはよく分かっていない。
海外で無宗教だとすると、破戒的な人間と受け止められてしまうらしく、神をも恐れない野蛮な人間として認識されてしまうから危険らしい。
日本人的な無宗教観は海外からすれば理解されにくいものなのだろう。
イスラム教みたいに国単位で進行がされている環境とは違い、国民が好き勝手に信仰したいものを選ぶというのが面白い。
自分も神がいるかどうかは置いておいて、八百万の神がいると思っているし、お地蔵さんを殴ったり蹴ることは絶対にできないし、おにぎりを踏めない。
喫煙所に貼ってある紙に載ってるアマビエ様だって今日までは普通のポスター的なそれとしか思えなかったけど、今日はヤニにまみれて黒ずんだそれを、そっと親指で拭ってみた。
アマビエ様、俺はゼミの飲み会を断行していいんですかね。先週の祇園祭の方がよっぽど危なかった気がするんですけど、良かったんですかね。
もう、やっちゃいますね。はい。
さっきちょろっと拭かせてもらったから、自分とその周りの人くらいには加護を貰えんでしょうか。
そんなわけで、今日はこの辺で。
ではまた。